昔、秋田の森吉山の沢に、力持ちの炭焼き弥三郎(やさぶろう)と妻子が暮らしていた。
弥三郎が夜鍋仕事をしていたある夜のこと。怪しい足音が聞こえたかと思うと、岩のような大男が姿を現し、じっと家の中を覗いた。
大男は、もじゃもじゃの髪に髭は胸まで届き、胸毛は三、四寸あって腰には熊の皮を巻きつけ、脚は一面の毛に覆われ人間の脚か獣の脚か見分けがつかなかった。
弥三郎はこの大男が噂で聞く『山おじ』だと分かると、彼は山おじに山盛りの御飯を振る舞った。山おじは美味しそうに御飯を平らげると、家を出ていき森吉山へ帰っていった。夜が明けて外に出てみると、地固めした庭に大きな足跡が三寸ほどめり込んでいた。
この時を境に山おじは時々、夜に限り薪の土産を持って弥三郎の家を訪れるようになり、近所の人々も、怖いもの見たさで弥三郎の家を覗くようになった。
ある日のこと、山おじが食事を終えると弥三郎に力試しをしようと言ってきた。ふたりは庭へ出て、相撲をとることになった。ふたりは激しくぶつかり押し合い揉み合い、なかなか勝負がつかなかった。
妻子も近所の人々が必死に応援するなか、弥三郎は最後の力を振り絞り山おじを押し倒した。負けた山おじは弥三郎の背中を軽く叩いた。ところが、その力があまりにも強すぎたので、弥三郎は気を失ってしまい、妻子が混乱のあまり「父ちゃんが死んでしまった」と言ってしまった。
山おじはその言葉を聞いて怖くなり、森吉山へ逃げてしまった。弥三郎は意識を取り戻したが、地固めした土に軽く触れただけで手がめり込み、小石を軽く握っただけで粉々になってしまった。山おじが弥三郎の背中を軽く叩いた時に、彼の身体に怪力が乗り移ったのだった。
弥三郎はその怪力を生かし懸命に働いたおかげで、暮らし向きは日に日に良くなった。しかし、あの山おじは二度と弥三郎たちが住む里に姿を現すことはなかった。
(投稿者: Kotono Rena 投稿日時 2013-11-01 21:56)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 瀬川拓男(未来社刊)より |
出典詳細 | 秋田の民話(日本の民話10),瀬川拓男、松谷みよ子,未来社,1958年07月30日,原題「森吉山の山おじ」,採録地「北秋田郡」,話者「柴田忠司」 |
場所について | 秋田の森吉山 |
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