昔あるところに、とても美しいトキという娘がいました。トキは「いつか自分の思う人が現れたら、自分で織った花嫁衣装を着てお嫁に行きたい」と考えていました。
ある月の晩、トキのところに、体も立派で顔立ちも凛々しい若者が現れるようになりました。トキと若者はお互いに気持を通わせ、いつのまにかトキは若者に心ひかれていきました。
トキは月の夜に現れる若者が、一体誰なのか知りたくなりました。トキは若者の着物に、糸のついた針を刺し、その糸の後を付いて行きました。すると、若者は林を抜けた先にある大きな王老杉(おろす)という、大杉の精だったのです。
この話を知り、災いを恐れた村人たちは、みんなで王老杉を切り倒す事にしました。しかし不思議な事に、硬い王老杉から剥ぎ取った木クズは、夜のうちに木の傷を埋めて治してしまうのでした。トキは涙ながらに「どうか木を切らないで」と訴えましたが、村人たちは木クズを燃やしながら、やっと99日間かけて切り倒しました。
立派な杉の木は、殿様の命令でお城に運ぶ事になりました。はじめはびくとも動かなかった王老杉は、トキがそっと寄り添うように手を添えると、うなずくように動き出しました。やがて大杉は切り刻まれ、お城へかかる橋になりました。
この橋は、月のきれいな夜になると、どこからともなく泣くような囁くような声が聞こえてきました。困った殿様は「何とかするように」とトキに言いつけました。トキは7日間かけて艶やかな花嫁衣装を織りあげ、月夜の晩に王老杉の橋にやってきました。
トキは夢を見ていました。トキは若者の胸に抱かれるように、若者に身を任せました。トキの体はふわりとお堀に落ち、お堀からはトキの体も着物も浮いてきませんでした。やがてこの橋を「ささやき橋」と名付けて、二人の事を語り伝えたそうです。
(紅子 2012-7-26 0:33)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 松田司郎(鎌倉書房刊)より |
出典詳細 | 父母が語る日本の民話(上巻),大川悦生,鎌倉書房,1978年4月20日,原題「王老杉物語」 |
場所について | 福島市笹木野折杉の王老杉稲荷神社 |
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