昔々、ある所に働き者の豆腐の若者が住んでおった。
豆腐の若者は色白で、マメ(元気)で、男前であったので、大根の娘っこも、ごぼうの娘っこも、にんじんの娘っこも、そして子持ちのなすびも皆彼に憧れていた。
豆腐の昼飯は、大根、ごぼう、にんじんの娘がそれぞれ心を込めて作ってくれたお弁当だった。それで、豆腐は毎日おいしいお弁当を腹いっぱい食って、おまけに身の周りの世話までしてもらっていたのである。ところが、こうして皆に世話をやいてもらっているうちに、豆腐はだんだんいい気になってきた。
年に一度の村祭りでの事。豆腐は、里芋と酒を飲みながら話をしていた。里芋は豆腐に、お前さんは誰を嫁っこにするつもりなんじゃ?と、尋ねると、豆腐は大根もごぼうもにんじんも好きじゃねぇと言い、なすびにいたっては年寄りはごめんじゃよ、と言って大笑い。
さすがに里芋は怒り出した。普段、皆にあれ程世話になっておきながら!豆腐の態度に腹を立てた里芋は、娘っこ達を集めて、あんな奴の世話をやく事はねえと言った。里芋の話を聞いた娘っことなすびは、顔色を変えて怒り出してしまった。
それからの豆腐は、誰からも世話をやいてもらえなくなり、初めてどんなに皆に世話になっていたのか、身にしみて分かったのだった。
そのうち、豆腐は病気になってしまった。娘っこと、なすびが豆腐の見舞いに行くと、豆腐は皆に酷い事を言って悪かったと、心からわびた。豆腐はしきりに死ぬかもしれないと弱音を吐くので、皆は縁起でもない事を言うな、マメ(元気)じゃ!マメになれと言葉をかけた。
しかし豆腐は震える声で「ダメなんじゃよ・・・オラは豆腐だから、もう元のマメ(豆)には戻れん」と、言って嘆いたとさ。
(投稿者: パンチョ 投稿日時 2012-8-24 1:24 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 松谷みよ子(角川書店刊)より |
出典詳細 | 民衆の笑い話(日本の民話11),松谷みよ子,角川書店,1973年12年25日,原題「豆腐の病気」,伝承地「中部地方」 |
場所について | 富山県下新川郡(地図は適当) |
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