昔、ある村に千枚田という田があり、そのまん中に真四角の田があった。その田の前には庄蔵という者が住んでいて、家の横に塚があったので「横塚」とみんな呼んでいた。
この横塚には、大判小判が埋まっているという噂があった。しかしこの横塚を掘るためには、庄蔵の家の敷地を通らねばならず、村人はだれも横塚近くに寄りつけなかった。
ある日、村人が畑仕事を終えて帰っている時、庄蔵が小判を磨いているところを見かけた。その夜、村人は集まって、横塚の小判を掘るいい方法がないか考えた。「家の前を通るのがダメなら穴掘って地下から行けばいい」
次の日、村人たちは庄蔵の敷地を通らなくて済むように、地下から空から試したが難航した。するとその様子を見ていた庄蔵は、「そげな事せずとも、家の前通りゃいいのに」と言う。そこで村人たちはすぐに降りてきて、家の前を通って横塚を掘り始めた。
掘ってみると、瓶いっぱいに入った大判小判を発見した。しかし、今回庄蔵があっさり家の前を通るのを許したのには訳があった。実は庄蔵、塚を一度掘り起こし、偽物の大判小判を埋めておいたのだ。村人たちは、そんなこととは知らずに街へ買い物に行ったが、反物屋の店主に「その大判は、偽物ですよ」と言われる。
その頃、庄蔵は「あいつら今頃街で恥かいているだろうなぁ」と、笑っていた。庄蔵は、自分が掘り当てた大判小判を、誰にも盗られないように元の場所に埋めておいたが、庄蔵も本物の大判小判など見たことはない。何のことはない。実は庄蔵が最初に掘り当てた大判小判も偽物だったのだ。
しかし、庄蔵はその大判小判を使うことがなく死んでしまい、今もこの辺りでは、塚の下に大判小判が埋まっていると伝えられている。
(投稿者: KK 投稿日時 2012-10-7 10:00)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 倉田正邦(未来社刊)より |
出典詳細 | 伊勢・志摩の民話(日本の民話31),倉田正邦,未来社,1961年02月28日,原題「横塚の庄蔵」,採録地「一志郡」,話者「田中きく」 |
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