昔、徳島の箸蔵山は、薄い霧がかかり風もないのに木が騒ぐので、神様がいる山として信じられていた。だから箸蔵村の里人たちは、この山には近づかなかった。
ところが、貧乏な百姓の男が薪(たきぎ)を拾いに、一人で箸蔵山に入った。拾った薪を町へ持っていくと飛ぶように売れ、その金で美味しいご飯をいっぱい食べる事が出来た。最初は怖がって山へ入るのをやめるように言っていた女房も、そのうち一緒になって薪を拾うようになった。
やがて、拾う薪がなくなると箸蔵山の木を切るようになり、山の木はことごとく切り倒された。こうして百姓夫婦は里一番の金持ちになり、箸蔵山の麓(ふもと)に大きな屋敷をかまえ、毎日毎日贅沢な暮らしを続けていた。
いつしか、箸蔵山から石が飛んできて夫婦の家の軒に当たるようになり、その数は日に日に増えてきた。ある雨の夜、ハゲ山になっていた箸蔵山がついに崩れ始め、大きな地響きとともに山津波(土砂崩れ)となって二人の屋敷を押し流した。
九死に一生を得た夫婦は、田畑を荒れ放題にし箸蔵山の木を切り倒したことを神様に詫びた。その後も、この里では箸蔵山には神様がいると信じられ、誰も山には近づかなかった。
(紅子 2011-11-23 0:27)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | ふるさとの民話(偕成社刊)より |
出典詳細 | 徳島県の民話(ふるさとの民話32),日本児童文学者協会,偕成社,1982年5月,原題「箸蔵山の赤い火」,採録地「池田町」,再話「扶川茂」 |
場所について | 徳島の箸蔵山(地図は適当) |
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