昔、鹿児島のある村に大金持ちの家と、ひどく貧しい爺さんと婆さんの家があった。
この村には毎年十五夜にその年に新しく取れたもので団子を作ってお月様に供え、豊作を願う風習があった。しかし二人の今年の豆は出来がよくなかった。爺さんは来年にその分の団子を供えようというが、婆さんは聞かない。隣の旦那さに借りてこようと出かけていってしまった。
しかしケチな旦那さは「十五夜のお供え物など古かもんでええ。勿体なか」と取り合わない。怒って帰る婆さんの頭上には、いつの間にか十五夜のお月様が昇っていた。消沈した婆さんの目に、たくさんの実をつけた旦那さの家の豆畑が映る。「そうじゃ、これをちょっくら、お借りもうそう」結局、爺さんと婆さんは新しかもんの、旦那さは古かもんの団子を供えて、それぞれ豊作を祈った。
それから何日か経ったある日、旦那さが爺さんと婆さんの家を訪ねてくる。聞けば大根の種を分けてもらいたいという。旦那さの家の大根の種には実が入っておらず、空っぽばかりだったそうな。面目なげな旦那さに婆さんは昔、十五夜様に古かもんを供えた結果、種が取れなかった者の話をする。旦那さはそんなことは罰当たりなことは…というが、口調はしどろもどろ。まあ困った時はお互い様、と、婆さんは種を貸してやった。
「へへへ、何がお互い様じゃ。得をしたのはわしだけじゃあわい」意気揚々と引き上げていく旦那さの背に、婆さんが声かける。「旦那さよー。これでお相子じゃー。十五夜様のお供え物の団子つくるのに、お前さんの畑の豆をずいぶん盗みもうしたでなー」
こんなことがあってからは、十五夜のお月様に供えた団子は、どこの家のものをいくつ盗んでも、誰も咎めんようになったという話じゃ。
(投稿者: hiro 投稿日時 2012-1-8 0:24 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 鹿児島のむかし話(日本標準刊)より |
出典詳細 | 鹿児島のむかし話(各県のむかし話),鹿児島のむかし話研究会、鹿児島県小学校教育研究会国語部会,日本標準,1975年01月20日,原題「十五夜のぬすみだんご」,文「中尾勇人」 |
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