昔、種子島に一人の狩人が住んでいました。狩人は鉄砲の名人で、さらにケシとクロクチという優秀な猟犬を飼っていました。
ある時、狩人は2匹の猟犬を連れて山へ入りました。この日はどういうわけか、ウサギ一匹の獲物もとれず、狩人は意地になってどんどん山奥へ入っていきました。
やがて、一度も来たことがない薄暗い場所へやってきました。獲物を探していた犬たちは、そのうち姿が見えなくなりました。夕暮れになっても、ケシとクロクチは戻ってこず、仕方なく狩人は、その場に草履(足なかという特別な草履)を目印に置いて、山を下りました。
翌日になって、再び山へ入りましたが、ケシとクロクチは見つかりませんでした。狩人はあきらめきれず、何日も何日も山へ入っては犬を探し続けました。やがて、狩人の目はギラつき、どんどん体が弱っていきました。
村長は「もう犬は諦めるように」と忠告しましたが、狩人は毎日毎日「ケシこい!クロクチこーい!」と叫びながら、山の中をさ迷い歩きました。
ある日、偶然に犬を見失った場所へやってきました。すると、目印としておいてきた狩人の草履を大事にくわえて、二匹の犬が息絶えていました。狩人はあまりの悲しさに、そのまま寝込んでしまいました。
狩人は「意地になって山奥まで入り、草履など置いてきたために本当にすまない事をした」と、後悔しながら息を引き取りました。
それから、今までに見たこともない鳥が姿を現すようになりました。その鳴き声は「ケシコイ、クロクチコイ」と聞こえ、狩人の魂がのりうつったのだろうと噂しました。そして「山の中に草履を置いてくると、不吉なことが起こる」と言われるようになりました。
(紅子 2013-9-16 17:34)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 下野敏見(未来社刊)より |
出典詳細 | 種子島の民話 第二集(日本の民話34),下野敏見,未来社,1962年11月25日,原題「ケシこい、クロクチこい」,話者「西之表市の美座能就、中種子町の石堂生介、南種子町の椎木三男」 |
備考 | 鳥の名はケシコ(フクロウ) |
場所について | 山奥(出典本の簡易地図による) |
このお話の評価 | 7.11 (投票数 9) ⇒投票する |
⇒ 全スレッド一覧