昔、ある地方の山奥できこりの善助どんが働いていた。善助どんは働き者で、おかげで山の木はすくすくとよく育っていた。
そんなある日、善助どんが昼飯を食っていると、どこからかよい香りが漂ってきた。善助どんが香りのする方へ歩いていくと、暗い木立の中に黄金色に輝く実をじゃんとつけたみかんの大木が立っておった。この山のことはなんでも知っている善助どんだったが、このような木は見たこともない。
善助どんがそのみかんを食べてみると、その美味いこと美味いこと。たらふくたいらげて一つを土産に持ってかえった。家には病気におっかあ(母)が寝ていた。食欲のなかったおっかあもこのみかんは美味しく食べることができた。そしてみかんを毎日たべるうち、食欲も出てどんどん元気になっていった。
そんな噂が村中に広まり、村人たちが善助どんにみかんの木のありかを訊ねてくるようになった。はじめは快く教えた善助どんだったが、みかんを取られたくないという気持ちが抑えられなくなっていく。いてもたってもいられなくなって、あわてて山へ走った。「これはわしが見つけたみかんじゃ。誰にもやらん。誰にもやらん。全部、わしのもんじゃ」
しかし善助どんがみかんに手を伸ばすと、みかんの木はたちまち消え失せてしまった。驚く善助どんの前に不思議な老人が現れる。老人は自分を木の神だといい、善助どんの働きに感謝はしているが、山の幸を独り占めしようとするようではもうみかんを食わせるわけにはいかないと告げて消えた。善助どんは後悔したがもう遅かった。
話を聞いた村人たちはひどく残念がったが、善助どんは「神さんにえらいみっともないところを見られてしもうた。もう、けして欲はかくまい」と、いっそう仕事に精をだして働いたそうな。
(投稿者: hiro 投稿日時 2012-1-9 23:53 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 村田熙(未来社刊)より |
出典詳細 | 薩摩・大隅の民話(日本の民話28),村田煕,未来社,1960年08月25日,原題「桜谷のみかんの木」,採録地「囎唹郡」,原話「須田農夫雄」,たかぎ民話より |
場所について | 鹿児島県曽於市末吉町南之郷の桜谷かも |
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