昔、九州別府の湾には、瓜生島というきれいな島が浮かんでいたそうだ。
瓜生島には、島の守り神として恵比寿さまが祀られており、この恵比寿さまには不思議な言い伝えがあった。恵比寿さまの顔が赤くなったら、島は沈んでしまうというものだった。反対に、恵比寿さまを大事にしていればご利益もあり、魚もたくさんとれるということだった。そのため島の人々は、毎日交代でお供え物をし、恵比寿さまを大事にしていた。
ところが、どの村にも人を困らせては、それを喜ぶ者もいるもんだが。瓜生島にも、悪太郎(あくたろう)と島中から呼ばれ、つまはじきにされているわんぱくな若者がいた。悪太郎は、毎日働きもせずブラブラしては次々に悪さをして、島の人々が怖がったり、驚く姿を見て喜んでいるのだった。
ある日悪太郎は、島の人が恵比寿さまにお供えした団子を横取りしているところを、島の人に見つかり袋叩きにされ酷い目にあわされた。怒った悪太郎は、仕返しをすることにした。その夜、悪太郎はこっそり恵比寿さまの顔に紅がらを塗りつけ真っ赤にした。塗り終わると、突然グラグラと地面が揺れ、地響きが起こり、恵比寿さまが大岩もろとも、地上高くに突き出した。だが悪太郎は、これを単なる地震のせいとしか思わなかった。
次の日の朝。島の人々は腰をぬかさんばかりに驚いた。
「ややや、恵比寿さまのお顔が真っ赤じゃ」
「こんなに岩が盛り上がって。きっと悪い知らせじゃ」
さあ大変。島中大騒ぎになった。島の人たちは先を争うように、船を出して逃げ出した。
不思議なことに、悪太郎が恵比寿さまにいたずらをしたその日から、毎日地鳴りが起こり、島全体が揺れ始めた。そのため、瓜生島に愛着があり、最後まで残っていた人たちも恐ろしくなり、島を抜け出した。そうして残ったのは、悪太郎ただ一人となった。「臆病もんの慌てもんが。わしが紅がらを塗ったとも知らんで逃げ出したぞ。島が沈んだりするもんか。2、3日もすればまた恐る恐る島に戻るじゃろうて」悪太郎はそう思っていた。
その時、今までになく大きく島全体が揺れ始めた。島の向こう岸の別府の浜にある、高崎山、それに続く、鶴見岳、由布の山々が一斉に火を噴き、火の柱が空を焦がした。その夜はさすがの悪太郎も不安になり、家の中で小さくなっていた。「こりゃあひょっとして、本当に島が・・・」
真夜中のことだ。海の水がみるみるうちに黒々として、その上を白い三角波が走り去った。
大津波が島を襲ったのだ。「ああ・・許してくれ、わしが悪かった。許してくれ・・・」瓜生島は別府の海の底へ呑まれていった。津波が引いた後には、ドロドロと濁った海が広がっているだけだった。
(投稿者: 十畳 投稿日時 2011-8-4 17:30 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 大分のむかし話(日本標準刊)より |
出典詳細 | 大分のむかし話(各県のむかし話),大分県小学校教育研究会国語部会,日本標準,1975年10月01日,原題「瓜生島とえびすさま」,再話「大塚俊英」,大分県の民話、別府の伝説と情話 |
備考 | 瓜生島は、安土桃山時代に1日にして沈んだとされている島。 |
場所について | 別府湾にあったとされる瓜生島(地図は適当) |
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