昔、鳥取のある里山に、ありがたやのじじと呼ばれる年寄りが住んでおった。
心の優しいじじは、決して虫を殺さなかった。人間は死ぬのが一番怖い、それは虫も同じだと思っていたからだ。じじは自分や、他の生き物が生きていられる事に、毎日ありがたいと感謝しながら生きておった。
じじは若い頃からよその家の使い走りで生計を立てていた。信心深いじじは、行きでも帰りでも峠では山の神様に手を合わせる事を欠かさなかった。
ある日の事。じじは一つ遠くの、隣町まで使いを頼まれて出かける事になった。近頃は山賊が出るとの噂があったので、じじは用心しながら道を進み、峠ではいつもより念入りに手を合わせて、山賊に、命と荷物を取られんようにとお祈りした。
しかし、運悪く、じじは道中で山賊に出くわしてしまった。山賊は命が惜しかったら荷物を置いていけと脅すが、じじは荷物を守ろうとした。じじは必死で山の神様に祈った。「どうか、荷物とわしの命をお守りくだされ、命を助けてくれたならば、祠を建てて必ずお祭りいたします」
その時、じじの耳に神様の声が聞こえた。「わらじを脱いで、頭にのせるのじゃ。必ず命は助けてやる」そこで、じじがわらじを頭にのせると、一匹のわらじ虫になってしまった。そして、荷物は空を飛んで行った。これを見ていた山賊は山の神様の祟りだと思い、恐ろしくなってその場から逃げ出した。
じじはちっぽけな虫になってしまったが、不満を抱かず神様に感謝した。そして、約束どおり祠を建てたが、なにせ虫が建てたものだから、人の目には見えないほど小さい物になってしまった。それでも虫が祠を建てて神を祭ったことから、この峠の事を、むしまつり峠と呼ぶようになったのじゃと。
(投稿者: パンチョ 投稿日時 2012-8-28 1:24 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 鳥取県 |
DVD情報 | DVD-BOX第10集(DVD第49巻) |
場所について | 虫まつり峠(地図は適当) |
本の情報 | 講談社テレビ名作えほん第079巻(発刊日:1987年6月) |
講談社の300より | 書籍によると「鳥取県のお話」 |
このお話の評価 | ![]() |
⇒ 全スレッド一覧