昔、京の都にお城勤めをしている勇士がおった。
体も大きく肩をいからせて歩く姿は大変頼もしく、村人たちはこの勇士を「たのもしどん」と呼んで慕っておった。村人たちは「この村にはたのもしどんがいるから安心だ」と口にしていた。しかしたのもしどんは、大きな体とは反対に肝っ玉は大変小さい男であったが、それは誰にも秘密にしてあった。
ある日のこと。たのもしどんは仕事の関係で朝早く家を出ることになった。そのためかかどん(妻)が夜も明けぬうちから、たのもしどんに持たせる弁当を作るため台所に立っていた。何気なくかかどんが振り向くと、台所の物陰に人影があった。
驚いたかかどんは、あわててまだ寝ていたたのもしどんここぞとばかりに助けを頼んだ。たのもしどんは恐ろしくて仕方がなかったが、かかどんの手前、刀を持って裸のまま台所へ向かった。
たのもしどんが台所に来ると、刀を持った体の大きい裸の男がこっちを見ていた。たのもしどんはすっかり恐ろしくなり、部屋に戻り寝間着をかぶってまた寝てしまった。たのもしどんは「自分はこれからお城仕えがあって、何かあってはならぬ身。代わりにおまえが行って来い」とかかどんに言い、再び台所に向かおうとはしなかった。
かかどんはすっかり呆れ果ててしまいながらも、台所に向かおうとした。するとその時に部屋の障子が外れて、寝間着をかぶっているたのもしどんの上に落ちた。たのもしどんは盗人が襲ってきたものと勘違いし、「命だけはお助けを」と言ってぶるぶると震えていた。
そうするうちに夜が明けてきた。かかどんが台所に行くと台所に日がさして、かかどんの影が映っていた。盗人だと勘違いしたのは、自分の影だったのである。
その日、何事もなかったかのように、たのもしどんはお城へと向かった。そして「わしに恐れをなして盗人め、何も盗らずに出ていきおったぞ」と肩をいからせて今日もお城へと向かうのであった。
(カケス 投稿日時 2014/3/2 15:21)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 岸なみ(偕成社刊)より |
場所について | 京の都 |
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