昔、種子島に魚売りの吾一という心優しい働き者の男がいました。
ある時、大雨が降り、雨に流されそうになっていた一匹の蟻を助けてあげました。翌日、吾一が同じ場所を通りかかると、見たことも無い大男が立ちふさがって「昨日は蟻を助けてくれてアリがとう」と声をかけてきました。
吾一は大男に連れられるまま、崖にあった小さな穴に入ってみると、不思議なことに穴の中には見た事もない世界が広がっていました。その先には立派な蟻のお城があり、蟻のお姫様から大変な歓迎をうけました。
すっかりご馳走になった吾一が、そろそろ家に帰ろうとすると、蟻のお姫様が立派な小袖(女物の着物)をお土産にくれました。「この小袖を着て袖を一振りすると、望むものが何でも出てきます。ただこの着物は誰にも見せてはいけませんよ」と言って、吾一を家へ送り出しました。
家に帰った吾一は、小袖を壁の穴に隠して一人だけでコッソリ使いました。仕事もやめ、なのに立派な着物を着て昼間から酒を飲んで遊んでいる吾一を見て、妻は怪しみました。
妻は吾一が町へ遊びに行っている間に、壁に隠してあった美しい小袖を見つけ出しました。妻はこの小袖を「愛人の着物」と勘違いして、嫉妬心から囲炉裏にくべて燃やしてしまいました。小袖はみるみるうちに燃え上がり、その炎は吾一の家にも燃え移りました。
吾一の家はすっかり燃え尽きてしまい、小袖も袖のところが燃え落ちていました。吾一は「無い袖は振れぬ」とすっかり落胆しましたが、また魚売りの仕事に戻り、夫婦仲良く末永く暮らしましたとさ。
(紅子 2012-9-25 19:36)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 下野敏見(未来社刊)より |
出典詳細 | 種子島の民話 第一集(日本の民話33),下野敏見,未来社,1962年08月31日,原題「アリの宮城」,採録地「中種子町野間竹星野」,話者「鎌田末次」 |
場所について | 種子島の中種子町野間(地図は適当) |
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