昔、沖縄本島から遠く離れた宮古島にマサリヤという漁師がいた。ある月夜の晩、マサリヤが海岸で釣りをしているとどこから来たのか美しい女が現れ今夜一晩泊めて欲しいと言う。マサリヤはこの女を自分の家に泊まらせ二人は一夜を共にしたが、翌朝マサリヤが目を覚ますと女の姿は消えていた。
マサリヤは女の事が忘れられず毎晩同じ場所で釣りをしたが、女が二度と姿を現す事はなかった。そんなある日、マサリヤを父と呼ぶ双子が海から現れ自分達はマサリヤとあの女の間に生まれた子供だと言う。双子は母のいる龍宮城へマサリヤを招待し、マサリヤが双子の肩に掴まるとまるで空を飛ぶように龍宮城へ辿り着いた。
龍宮城ではあの美しい女がマサリヤを待っており、女はいつまでもここで暮らすようマサリヤを歓迎した。マサリヤは龍宮城で夢のような日々を過ごしたがいつしか陸へ帰りたくなったため、女はマサリヤに土産として瑠璃色の壺を持たせ双子にマサリヤを陸まで送らせた。
マサリヤが陸に着くと村は変わり果て、マサリヤの家は跡形もなくなっていた。顔もいつの間にか五十を過ぎた老人のようになりマサリヤは途方に暮れていたが、持ち帰った壺から酒の匂いがするので飲んでみると急に全身が若返り、酒の量は飲んだ分だけ増えていった。
この若返りの妙薬の噂はたちまち島中に広まり、沢山の老人達が壺の酒を一杯でも飲ませてもらおうとマサリヤの所へ押しかけた。マサリヤも最初は気前よく壺の酒を分けていたが、お礼を貰い屋敷に住むうちにいつしか自分が大変偉い人間だと思うようになった。
ところが屋敷は毎日壺の酒を求める老人達で殺到し、夜も眠れなくなったマサリヤはとうとうある晩壺に対し「こんな物持ってくるんじゃなかった!」と言ってしまう。すると壺は白い鳥となって飛び立ち、マサリヤは慌てて追いかけるも白い鳥は夜空の彼方へ消えて行った。こうしてマサリヤは再び老人になり、若返った人達も元の老人に戻ってしまったという。
(投稿者: お伽切草 投稿日時 2012-12-3 0:44)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 伊波南哲(未来社刊)より |
出典詳細 | 沖縄の民話(日本の民話11),伊波南哲,未来社,1958年08月15日,原題「不思議なつぼ」,採集者「喜納緑村」 |
場所について | 宮古島市平良字荷川取(地図は適当) |
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