むかしある所で、いたちの《いたどん》と、ねずみの《ねずどん》が「河原に粟畑をこさえよう」ということになった。
まずは、河原の石をどけて畑の区切りをつくり、土の荒おこしじゃ。《いたどん》はせっせと働いた。一方、《ねずどん》は石の上に座ったまま、だらだらしておるだけじゃった。次は、種まきじゃ。しかし、《ねずどん》が楽な鳥の見張り役をさっさとかってでたので、《いたどん》は、また一人で粟の種を畑に播いた。
何日か経つと、粟は芽を出し、どんどん大きくなっていった。粟を育てるには、肥やしやり、草取り、柵切りと、たくさんの手間がかかるのじゃ。《いたどん》は毎日のように、一緒に粟の世話をしようと《ねずどん》を誘った。じゃが、《ねずどん》はその度に、あちこちが痛いと嘘をついて断るのじゃった。《いたどん》は文句も言わず、一人で粟の世話を続けた。一方《ねずどん》は「こういう時は、頭を使うんじゃよ。」と得意そうに怠けておった。
やがて《いたどん》の頑張りで粟は立派に実った。ところが、刈り入れの前の日の夜、《ねずどん》はこっそりと粟畑に忍びこんで、粟を全部刈り取ってしもうた。そうして、《ねずどん》は盗んだ粟で粟餅を作り、子供達と一緒に全部食べてしもうたのじゃった。翌日《いたどん》が粟畑に出かけてみると、粟の穂は綺麗さっぱり盗まれておった。怒った《いたどん》は、鳥達に盗人を見なかったか訪ねて回った。しかし、盗人の姿を見た者はおらんかった。
《いたどん》はガッカリして、《ねずどん》の家へ向かった。「《ねずどん》、申し訳ねえだ。おらウッカリしてて粟をそっくり盗まれちまっただ……。」《ねずどん》は素知らぬ顔をしておった。そこへ、《ねずどん》の子供達がころころとやってきて、「昨夜の粟餅美味しかったなぁ。」とまとわりついた。
「さては、粟盗人はお前じゃなぁ!もう勘弁ならん!」と《いたどん》は口から火を吹かんばかりに怒り、《ねずどん》の歯を一本一本抜いてしもうた。それでも、《ねずどん》を可哀そうに思った《いたどん》は、最後に前歯を二本だけ残してやったそうな。
ねずみの前歯が二本になったのは、そんな訳じゃそうな。
(投稿者: ニャコディ 投稿日時 2011-12-30 12:42 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 瀬川拓男(角川書店刊)より |
出典詳細 | 動物の世界(日本の民話01),瀬川拓男,角川書店,1973年5年20日,原題「いたちとねずみの粟畑」,伝承地「上越地方」 |
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