昔、丹沢の山の中に爺さまと孫娘が二人で住んでいた。二人は、家の前の畑に季節の物を植え、これを収穫して暮らしていた。
ある秋の日、二人は冬に収穫する大根の種を畑に蒔いた。すると種からは芽が出て、やがて大きな大根の葉を茂らすようになった。二人は大根が大きく育つようにと、せっせと川から水を汲んでは、畑に撒いた。
ところがどうしたことか、それから何日も雨が降らない日が続いた。川の水も干上がり、このままではせっかく育った大根も枯れてしまう。そこで爺さまは、塔ケ岳の尊仏さまに雨乞いに行くことを思い立った。
尊仏さまとは、塔ケ岳の上にあるてっぺんに穴の開いた大岩のことで、雨を降らせる神さまとして土地の者から祭られていた。
爺さまと孫娘は、早速塔ケ岳に登り尊仏さまの前で手を合わせ、雨が降ることを一心に祈った。こうして二人は、それから毎日塔ケ岳に登り、尊仏さまに手を合わせた。ところが、二人のお参りが八日目になっても、いっこうに雨の降る気配はない。そればかりか、爺さまは無理がたたって具合が悪くなってしまう始末。
これを見た孫娘が、願いをいっこうに聞いてくれない尊仏さまに腹を立て、尊仏さまに向って小石をたくさん投げつけると、そのうちの一つが岩のてっぺんにある穴の中に入った。すると地鳴りが起き、大岩から大きな声がする。「誰じゃあ~!!尊仏さまの穴に石を投げ込むやつは~!!」
孫娘は怖くなって爺さまに背に隠れながらも、今までのいきさつを話した。すると尊仏さまは笑いながら答える。尊仏さまが言うには、今まで昼間はずっと昼寝をしていたので、それで願いを聞けなかったのだと。そして言い終わるや否や、岩の穴からたくさんの雷様と黒雲が出てきて、里には雨が降った。
それからと言うもの、この辺りでは雨が降らないと、尊仏さまの目を覚ますために、岩の穴に石を投げ込むようになった。そして目を覚ました尊仏さまは、必ず気前よく雨を降らせたそうな。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2012-12-5 13:46)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 神奈川県 |
場所について | 秦野市の塔ノ岳 |
本の情報 | 講談社テレビ名作えほん第068巻(発刊日:1987年1月) |
講談社の300より | 書籍によると「神奈川県のお話」 |
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