昔、国のあちこちの戦場を訪ね歩く、一人の坊さんがいました。
降り注ぐ矢の下をくぐり、倒れた兵士から矢を抜き取ると、坊さんは叫びました。「この矢を射たものは誰ですか!こんな事が許されて良いのか!」坊さんは兵士たちに捕らえられ、大将の前に引き据えられ、なぜ戦に口出しをするのか理由を尋ねられました。
坊さんは若い頃、宇都宮のあさり沼で猟師をしていました。ある日、なかなか獲物がとれず、ふと沼で見つけた二羽のおしどりの雄に矢を放ちました。そして、矢が刺さったままのオスを軒下につるし、その夜は眠りにつきました。すると真夜中になって枕元で悲しげになく女の姿がありました。「なぜ私の夫を殺しました?夫を返して下さい!」
はっと夢から目を覚ました猟師が外を見ると、そこには射抜いたおしどりに寄り添うようにして、雌のおしどりが自ら矢に付き刺さって死んでいました。翌朝、猟師は二羽のおしどりを沼のほとりに埋めると、罪滅ぼしのために坊さんとなり全国の戦場を回る旅にでました。
坊さんはこれまでの経緯を話し、最後に「戦をしてはいけない、戦はひきょう者のする事だ」と、大将を諭しました。ひきょう者よばわりされ、怒った大将が坊さんに刀を向けた瞬間、とつぜん雷に打たれ気を失ってしまいました。次の朝、倒れていた大将が目を覚ますと、坊さんの姿はなく兵士たちもまたどこかへ行ってしまっていました。
その後、坊さんは七十歳を過ぎてから故郷のあさり沼に戻り、沼のほとりに石の塚を築きました。誰言うとなく、この塚を「おしどり塚」と呼びました。
(紅子 2012-2-1 2:53)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 栃木県 |
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場所について | おしどり塚公園 |
講談社の300より | 書籍によると「栃木県のお話」 |
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