昔岩手でのこと、何年も日照りが続き、村人達は大変困っていた。田も畑も枯れてしまっていたが、田んぼのあぜに植えた大豆だけが村人達を飢え死にから守っていた。
そんな折り戦が起こり、お侍が村人から食い物を出すよう迫った。村人が最後にとっておいた米を「明日の昼までに陣屋に持って来るように」と命令した。しかし雑兵達の食い物までは無かったので、可哀想に思った村人達は空腹も忘れ、冬に食べるつもりでとっておいた大豆を煮豆にして届けてやることにした。
そしてどうやって運ぼうかと考え、米は無いがワラならいくらでもあるので、それに煮豆を包んで運ぶことにした。村でも評判の力持ちのひょうろくが運ぶことになったが、矢に当たると危ないので鍋をかぶって出掛けていった。
真夏の暑い最中、鉄鍋をかぶってジリジリと暑いひょうろくはもう何やら夢心地。道草を食うやら道に迷うやら、眠くなれば道ばたで眠ってしまうやらで、結局その日は結局お地蔵さまの側で寝てしまった。
次の朝、ひょうろくが歩いていくと、山の下で激しい戦をしているのが見えた。下まで来てみると、数え切れない雑兵の骸を見たひょうろくは可哀想になり、全員埋めてやり弔ってやった。こうしてまた時間をくったひょうろくはまた陣屋に向かって歩いていった。
すると途中の道の真ん中に雑兵が一人倒れている。話を聞いてみると、その雑兵は空腹のあまり動けなくなりその場へ置き去りにされてしまったと言う。ひょうろくは山ほどの荷物に雑兵一人担いで山道を歩き、ようやく陣屋に辿り着いた。
大将は御立腹だったが、温かい湯気の出るにぎり飯を差し出すと機嫌を取り直した。ところがそのにぎり飯は暑い最中をのんびり来たためとっくに腐っていた。大将はそれを見てひっくり返ってしまった。雑兵達は煮豆も腐っているのではないかと、急いでワラの包みを開けてみた。すると煮豆はネバネバとして糸を引いている。
雑兵達はがっかりしが、糸を引いた煮豆を食べてみた。すると何と腐った煮豆は大変美味しかった。驚いた雑兵達は次々と腐った煮豆をほおばった。そしてひょうろくに礼を言い、ひょうろくにも煮豆を食わせてやった。
これが納豆の始まりだそうだ。陣屋に「納めた」豆であるから「納豆」と言うようになった。 そしてその納豆を村々に売り歩くようになったのはもちろんひょうろくが最初である。
(引用/まんが日本昔ばなし大辞典)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 岩手県 |
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