昔、淡路島の洲本の裏の三熊山(みくまやま)に、芝右衛門という狸とお増(おます)という夫婦のたぬきが住んでいた。
芝右衛門だぬきが三熊山の頂上で腹鼓を打った翌日は、いつも大漁であった。芝右衛門だぬきは、人間に化けて木の葉の金で魚を買うようないたずらもしたが、村人たちは芝右衛門を悪だぬきとは思わなかった。
土地の者が道に迷ったりすると、芝右衛門だぬきが道案内をしたりもしたので、島の者から愛されていた。芝右衛門だぬきに親切にされた人々は、お礼として一升徳利の酒を収めていた。
ある時、芝右衛門だぬきはお増と一緒に浪速へ芝居見物に出かけた。芝右衛門だぬきとお増は、人間に化けて浪速へ船で向かった。浪速は何から何まで淡路島とは違い、夫婦はすっかり調子がくるってしまった。
心配したお増が「島へ早く帰ろう」と促すが、芝右衛門だぬきはすっかり上機嫌で三つ目の化け物に化けて、浪速の人々を驚かしてみせた。すると、化け物騒ぎを聞きつけた役人が飛んできて、お増を斬り殺した。
芝右衛門だぬきは大変悲しんだが、島へはすぐに帰ろうとせず、意地になって浪速で評判の芝居を見に行った。芝右衛門だぬきはお増にそっくりな女形役者が出てくる、その芝居にはまってしまい、毎日芝居を見に行くようになった。
その頃、芝居小屋では、毎日客の置いていく金の中に、木の葉が混じっていることに気が付いていた。芝居の千秋楽の日に、芝居小屋の管理人は犬を芝居小屋の陰に潜ませていた。芝居が終わった頃、芝右衛門だぬきは犬たちに襲われ、ついには殺されてしまった。
その後、淡路島の人たちは、三熊山の山頂に芝右衛門だぬきの墓と祠を建てた。そして浪速の道頓堀の芝居小屋の人たちも、毎年淡路島へお参りに来るようになったという。
(投稿者: カケス 投稿日時 2013-11-3 16:09)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 宮崎修二朗(未来社刊)より |
出典詳細 | 兵庫の民話(日本の民話25),宮崎修二朗、徳山静子,未来社,1960年01月31日,原題「柴衛門だぬき」,採録地「洲本市」,採集「児島博一」 |
場所について | 洲本八幡神社(柴右衛門神社) |
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