はるか昔のこと、信州の浅間山の辺りに、でいだらぼっちでいらん坊という途方もない大男がいた。
ある時、でいらん坊が碓氷峠に腰かけて昼寝をしていると、猪が昼寝の邪魔をする。そこで、でいらん坊は、この猪を捕まえて猪汁を作ろうとした。でいらん坊は、矢ケ崎山のかまど岩に鍋をかけて、千曲川(ちくまがわ)から水を取って猪汁を作る。ところが、いざ出来上がって食べようとした時、足を滑らせて猪汁をこぼしてしまった。それでこの辺りでは、今も猪汁の塩辛い水が噴き出すという。
またある時、でいらん坊は、火柱を上げて噴火しながら大きくなる浅間山を見て、となりで静かに眠っている八ヶ岳を大きくしようとした。でいらん坊は、辺りから土をかき集めて八ヶ岳の上に載せる。ところが八ヶ岳は、たくさんの土を頭の上に乗っけられて「頭が重てぇよ~。」と言った。これを聞いて怒ったでいらん坊は、八ヶ岳の上に載せた土を崩してしまった。
すると、妹の蓼科山(たてしなやま)が、「お兄さんが可哀想」と言って泣き出すもので、でいらん坊は、蓼科山を少しおどかして泣き止ませようとした。でいらん坊は蓼科山を持ち上げたが、これが意外に重く、でいらん坊の足は地面にめり込んでしまった。このでいらん坊の足跡に水がたまり双子池となり、また八ヶ岳の頭は、この時にでこぼこになったのだそうだ。
さて、この頃はまだ千曲川のほとり、小県(ちいさがた)の塩田平や佐久の小海辺りは水の底だったので、鮭の大群が川を遡上してきた。やがて、これらの獲物を求め人間が住みつくようになり、その数はどんどん増えていく。しかし、数が増え過ぎた人間たちは、食べ物をめぐって争いを起こす始末。
この人間たちのやかましい争いには、でいらん坊も参ってしまい、人間たちのために新しい土地を作ることにした。でいらん坊は、岩鼻と半過(はんが)の間の崖を切り崩し、湖沼を埋め立てていく。
こうして、佐久平と塩田平ができ、人々はこの豊かな土地に作物を植えて生活するようになった。そして人々は、でいらん坊のことを“大きいぼっちゃ”と言って崇めるようになったそうだ。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2012-7-29 8:50)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 瀬川拓男(未来社刊)より |
出典詳細 | 信濃の民話(日本の民話01),信濃の民話編集委員会,未来社,1957年06月30日,原題「でいだらぼっち・でいらんぼう」,話「瀬川拓男」 |
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場所について | 信州の浅間山 |
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