むかしむかしあるところにお酒の大好きな男がいました。その男の主人はお侍だったので江戸へとよくお使いに行かされました。
その途中に一軒の飲み屋がありました。お酒の大好きな男は、そこを素通りすることは出来ませんでした。そうしてお酒に酔っ払って店先でグーグー寝てしまうのが常でした。そして寝過ごして兎のように飛び跳ねながら江戸へと向かって行くのでした。
ある晴れた日、男は茶店でお酒を飲んで店先でグーグー眠っておりました。寝ている間に他の客から男の頭に柿の種を付けられてしまいました。やがて店のおかみさんに大声で起こされて、頭に柿の種が付いているのも知らず飛び跳ねて江戸へと向かって行きました。
そしてその柿の種は男の頭の上で大きく育ち始め、やがて花が咲きたくさんの実が成りました。その柿の実が赤く熟し始めた頃、男はおかみさんにこの柿の実の換わりに酒を飲ませてくれと言い出しました。おかみさんも快くお酒を飲ませてあげました。男はまた店先でグーグー寝てしまいました。
するとそこへお侍が通りがかり、頭に柿の木がある男を見てお侍は刀で柿の木を切ってしまいました。男は何事にも気が付かずおかみさんにまた起こされて慌てて江戸へと向かって行きました。すると男の頭の切り株が今度はその後にたくさんの平茸が生え始めました。そしてその平茸が大きくなった頃また茶店にやって来て平茸の換わりにお酒を飲ませてもらいました。そうしてまた店先でグーグー眠っていると一人の木こりが通りがかりました。
すると木こりは頭の切り株を粉々に割り始めました。その後に大穴をあけました。そんな事とは露知らず男はおかみさんにまた起こされて大慌てで江戸へと向かって行きました。ところが今度は変なことになってしまいました。男が出て行った後、長い雨がドンドンドンドン降り続き、男は傘も差さず頭に被るものも持っていなかったので、頭の穴に雨がたくさん溜まりやがてはどじょうが住み着く始末でした。
男はまた茶店に行きどじょうの換わりにお酒を飲ませてもらいました。すると今度は頭に出来た池のどじょうで酒を飲んでる奴がいると聞いて多くの見物人が集まってきました。そして中にはその池でどじょうを釣らせてくれと言う者も出てきました。男はその人達にどじょうを釣らせてあげました。そして相変わらず男はどじょうをお酒に換えてグーグー居眠りし、おかみさんに起こされて大慌てで江戸へと向かって行きました。
( 投稿者: 迦楼羅 投稿日時 2012-12-17 0:37)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 坪田譲治(新潮社刊)より |
出典詳細 | 新百選 日本むかしばなし,坪田譲治,新潮社,1957年8月30日,原題「頭にカキの木」 |
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