昔あるところに、貧しいが仲の良い夫婦が住んでいました。旦那は山で木を切り、女房は家で機を織って暮らしていました。
ある晩、旅のお坊さんがやってきて一晩泊まっていきました。旅のお坊さんは二人に感謝し、翌朝「あなたたちには福相が現れている、そのうちいい事がありますよ。果報は寝て待て、じゃ」とお告げになりました。
それを聞いた旦那は「果報が来るまで寝て待つぞ」と言って、それから3年もの間寝て暮らしました。しかし、いくら寝ていてもちっとも果報はやってきませんでした。
そんなある満月の晩に、寝転んでいた旦那が女房を呼びました。天窓から月の兎が餅をついている姿がよく見えると言うのです。それが村中に伝わり、ついには「月うさぎが餅をつく姿を拝むと果報がやってくる」と噂になりました。やがて、遠くからも沢山の人が月うさぎが餅をつく姿を見に来るようになりました。
そして、見れた人々がお礼にお金やお供物を沢山おいて行ってくれるので夫婦はたちまち大金持ちになりました。夫婦は喜んで、もっとお金を稼ごうと古い家を取り壊し、大きな家を建て沢山の天窓を作りました。
しかし、どうしたわけか新しい天窓からはいくら月を見ても、兎の餅つきが全く見えないのです。そういうわけで、月うさぎの餅つきを見に来ていた人々もこなくなり、そのうち夫婦についての悪いうわさも流れ、誰も家に訪れる人もいなくなりました。
そんな時、あの時の旅のお坊さんが再び立ち寄りました。これまでの話を聞いたお坊さんは「果報に欲を起こさず、人間は真面目に働くことだ」と、諭されました。それからの旦那は、再び真面目に働くようになったそうです。
(投稿者: もみじ 投稿日時 2012-7-4 17:12 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 松岡利夫(未来社刊)より |
出典詳細 | 周防・長門の民話 第二集(日本の民話46),松岡利夫,未来社,1969年10月20日,原題「果報者と阿呆者」,採録地「大津郡、美弥郡」,話者「福永カネ、山田源一」 |
場所について | 大寧寺(山口県長門市深川) |
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