昔、川内の泰平寺には、伝教大師が作ったという大黒天という木像がありました。
ある時、この村一帯で塩が乏しくなり、毎日食べる味噌や醤油もつくる事ができず、村人や泰平寺の人たちは大変困っていました。塩がないと料理も美味しくできないし、お寺の炊事係の小僧さんが大黒様に「座ってないで塩でも持ってきてください」と、小言をいいました。
あくる日、この大黒様が無くなりました。寺では盗まれたんじゃないかと大騒ぎでしてみんなで探しましたが、結局大黒様は見つかりませんでした。一週間ほどたったころ、塩を山ほど積んだ船が甑島(こしき)からこの村にやってきました。
切羽詰まった時に塩が届いたので、村人たちや小僧さんたちは驚きました。「なぜに塩を持ってきたのですか?」と尋ねると、船の人夫(作業員)たちは「数日前に泰平寺のお坊さんがこしき島にやって来て、一刻も早く塩を持って行って欲しいと頼まれた」と言いました。
しかし、そんなお坊さんなど、誰も心当たりがありませんでした。その時、ふと炊事係の小僧さんが仏壇のところへ行ってみると、無くなっていた大黒様がちゃんと元の位置に座っていました。きっと大黒様が、塩がなくて困っていた村人たちのために、甑島へ行って頼んできたのでしょう。
この事を知った村人たちは、この大黒様をいつまでも大切にまつり、いつしか「塩大黒天」と呼ぶようになりました。
(紅子 2012-11-6 23:42)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 村田煕(未来社刊)より |
出典詳細 | 薩摩・大隅の民話(日本の民話28),村田煕,未来社,1960年08月25日,原題「塩大黒天」,採録地「川内市」,原話「宮里浄清」 |
場所について | 泰平寺(地図は適当) |
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