昔、あるところに一軒の水車小屋があって、そこではひとりのおじいさんが粉ひきの仕事をしていた。
ある雨の日のこと。小屋に一匹の子狐が迷い込んできた。おじいさんはびしょ濡れで震えている子狐を小屋の中に入れ、雨がやむまで休ませてあげることにした。雨が止んだ頃になると子狐は山へ帰っていった。
この事をさかいに、子狐は毎日のようにおじいさんのところへ遊びに来るようになった。
おじいさんは時折、町へ出かけることがあった。その時、子狐は通りの松の木の下で帰りを待つのだった。おじいさんは子狐にお土産の油揚げを買って帰ってきたが、帰る途中で雨に濡れたせいで熱をだし、しばらく寝込んでしまい、心配した子狐はおじいさんの看病をした。
看病のおかげで何日か後には、おじいさんは起き上がれるくらい元気になった。おじいさんは子狐に看病をしてくれたお礼を言った。
ある日のこと、おじいさんは町へ出かける用事があった。おじいさんは子狐に油揚げを買ってくるから松の木の下で待ってほしいと言って、町へ出かけていった。夕方、おじいさんが帰ってくると、松の木の下で子狐と母狐が帰りを待っていた。母狐はおじいさんを見るなり、口にくわえていた折詰を置いた。
なぜか子狐はおじいさんを寂しい目で見つめたあと、母狐と共に山へ帰っていった。おじいさんも寂しい思いにかられながら、狐親子を見送った。折詰の中には鯛や蒲鉾や煮しめなど沢山入っている、婚礼の折詰だった。
おじいさんがのちに知ったことだが、峠から一里ほど離れた村で大きな婚礼があったが、客に出す折詰がどうしてもひとつ足らず、大騒ぎになっていたそうだ。
(投稿者: Kotono Rena 投稿日時 2013-8-4 20:48)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 松谷みよ子(未来社刊)より |
出典詳細 | 信濃の民話(日本の民話01),信濃の民話編集委員会,未来社,1957年06月30日,原題「きつねのお礼」,採録地「南佐久郡八千穂村」,話「青柳美都」,再話「松谷みよ子」 |
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