昔、福岡県遠賀郡に八釼神社という人々に親しまれた神社があったが、長い年月の間にお社はあちこち傷んできた。村人たちは神社を訪れ、草鞋を作って売ったお金を貯めて修理する計画を鎮守様に伝えた。
ある日のこと。春なのに珍しく長雨が三日間降り、畑仕事が出来ない村人たちは家の中で草鞋を編んでいた。ところが長雨が原因で川の水嵩が増し、堤防は今にも決壊しそうだった。これを知った村人たちが川へ向かうと、どうすることも出来ないくらい川の水が増えていた。人々は神社に向かいお社の前で一晩中祈り続けた。夜が明けると雨は止んだが、川の方に目をやると檜の丸太が流れ着いていた。
村人たちはこの丸太を使って神社の修理をしようと決め、計画を練っていたが、ひとりの村人が大慌てでやって来た。あの檜の丸太は役人の物であり、丸太について明日、役人が厳しく取り締まりに来ると伝えに来た。困った村人たちが計画を中止にしようかと話し合っている時だった。
「その必要はありません。」と声がしたので、振り返ると見知らぬ娘がひとり立っていた。村人がどうすればよいかと聞くと、娘は「上の田んぼ二枚を掘り起し、その中に材木をめなさい。そしてナタネの種を蒔けば役人は気づかないでしょう。」と教えた。それを聞いた村人たちが心を決め、後ろを振り返ると娘の姿は無かった。その夜、村人たちは娘の言葉に従った。
翌日、役人がふたりの家来を連れてきて村を捜索したが、材木は見つからず、やがて上の田んぼの捜索しに行った。村人たちは、丸太が見つかってしまうのではと、恐ろしくなりながらも役人たちと共に上の田んぼへ向かった。するとそこで村人たち、役人たちが見たのは、一面に咲いたナタネの花だった。昨夜蒔いたナタネの種が、一晩のうち沢山の花を咲かせていたのだ。役人たちはナタネの花の下に丸太が埋まっていることに気付かず村を後にした。
その時、村人たちは昨日の娘の正体が、鎮守様の使いであることに気付いた。役人は二度と取り調べに来ることなく、人々は檜の丸太で新しいお社を建てることが出来た。今では立派なお社が建っているそうだ。
(投稿者: Kotono Rena 投稿日時 2013-10-19 20:54)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 加来宣幸(未来社刊)より |
出典詳細 | 福岡の民話 第一集(日本の民話30),加来宣幸,未来社,1960年11月30日,原題「一夜で咲いたナタネの花」,採録地「遠賀郡水巻下二」,話者「吉田ふね」 |
場所について | 福岡の遠賀郡の八剱(やつるぎ)神社 |
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