昔ある浜辺に、少し頭の足りない佐太という若者が両親と一緒に暮らしていました。両親は、同じ年の男の子はもう立派に一人立ちしているというのに、、、と心配していました。
この辺りでは「隠れ島」の言い伝えがあり、海底から泡がポコポコ沸いているところに若い男が近づくと、隠れ島の小姫に取り込まれてしまう、といわれていました。だから、父親はあまり近づかないようにと、佐太に言い聞かせていました。
ある晩、佐太が眠っていると夢の中で泡のはじける音と人の笑い声が聞こえてきました。気になった佐太は、海の泡の出ているところへ船をこぎ出しました。すると、泡から美しい女性の声がはっきり聞こえ、心の中で心地よく響き渡りました。
はっと目が覚めると、どうした事か、佐太は見知らぬ浜辺にいて目の前に美しい小姫が立っていました。二人はすぐに好き合い、踊ったり笑ったりして楽しく一時を過ごしました。それからの佐太は、毎晩々小姫に会うために船で出かけるようになりました。
ある強風が吹く晩、佐太の船が転覆してしまい、佐太は海の中へ沈んでいきました。気が付くと、心配そうな顔をした小姫が必死に佐太の名を呼んでいました。二人はそのまま隠れ島へ旅立ち、それっきり佐太は家には帰ってきませんでした。
両親は、佐太が隠れ島の小姫にとられたとわかると、とても悲しみました。でも、佐太が消えた後、海の泡からなんとも楽しそうな音が聞こえるようになりました。やがて両親や村人たちは、きっと佐太は隠れ島で幸せに暮らしているんだろうと、思うようになりました。
(紅子 2012-5-28 1:03)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 辻田三樹恵(晴文社刊)より |
出典詳細 | 風の長者さま,辻田三樹恵,晴文社,1978年12月24日,原題「隠れ島の婿さま」 |
本の情報 | 講談社テレビ名作えほん第040巻(発刊日:1981年3月) |
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