昔、ある村にお民という女の子が住んでいた。お民は両親と早くに死に別れたが、猟犬のしっぺい太郎という頼もしい連れがいた。
しっぺい太郎の牙は鋭く、熊をも一撃で仕留め、またその足は素晴らしく、空中に飛び上がったかと思えば、もう空を飛ぶ小鳥を口にくわえていた。
ところが、この話を聞いた欲深い長者は、どうしてもしっぺい太郎が欲しくなった。長者は、お民の両親が自分に借金を残して死んだことを口実に、3日間だけしっぺい太郎を貸してくれと言う。長者にこう言われては断る訳にもいかず、お民は泣く泣くしっぺい太郎を屋敷に置いて帰った。
しかし、長者は3日経ってもしっぺい太郎を返してくれない。お民は仕方なく1人で山へ猟に出た。ところが、お民は山で野犬に襲われそうになってしまう。窮地に陥ったお民がしっぺい太郎の名を叫ぶと、長者の屋敷からしっぺい太郎が飛び出し、お民を助けにやって来た。
こうしてお民は事なきを得たが、長者はしっぺい太郎が勝手に屋敷から飛び出たことに腹を立て、お民を村から追い出してしまった。村を追われたお民としっぺい太郎は、海辺の村にやって来た。ところがこの海辺の村では、村を津波から守るため、毎年人身御供を捧げていた。そして村にもう娘がいないので、村人はお民を人身御供として祠に閉じ込めてしまったのだ。
村人が去ると、しっぺい太郎はお民の代わりに自分が祠の中に入った。やがて雷鳴が轟き、風が激しくなると、海の方から巨大な化け物が祠に迫って来る。しっぺい太郎は、化け物が祠に近づくと、ここぞとばかり祠を飛び出し、化け物の喉笛に噛みついた。
すると化け物の影は消え失せ、そこにはしっぺい太郎に追われる古狸の姿があった。そう、化け物の正体はこの古狸だったのだ。そして古狸を退治したしっぺい太郎は、いつの間にか人間の若者になっていた。神様がしっぺい太郎を人間に変えて下さったのだ。こうして人間になったしっぺい太郎は、以後、大好きなお民と末永く暮らしたそうだ。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2012-10-7 18:41)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 那須田稔(鎌倉書房刊)より |
出典詳細 | 父母が語る日本の民話(下巻),大川悦生,鎌倉書房,1978年4月20日,原題「しっぺいたろう」 |
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