昔々、ある山の峠に1人のきれいな娘が住んでいた。この娘、身寄りがなく、たった1人で峠のそば屋を営んでいた。
ある日のこと、にわかに雲行きがあやしくなり、やがて雷とともに大雨が降り始めた。娘は雷が怖かったので、戸締りをして家の中で小さくなっていた。すると、何と空から雷様が落ちて来たのだ。雷様は、そば屋の暖簾を見てそばが食べたくなったので、そば屋の戸を叩いた。娘は雷様を見て驚いたが、そばを出さないと自分が食べられてしまうと思ったので、雷様にそばを出すことにした。
雷様はそばを食べ終わると、娘が1人ぼっちなのを見て、おっとうやおっかあは居ないのかと尋ねる。すると、娘はここに1人で住んでいると言うのだった。娘のことを不憫に思った雷様は、何と自分を婿にしてほしいと頼んだ。娘は恐ろしさのあまり、この話を承知してしまった。
こうして、雷様はそば屋に婿入りしてそばを打つようになった。この話はたちまち村中に広まり、雷様の打つそばを食べようと、あっちの村こっちの村からと客が押し寄せたので、店はたいそう繁盛した。
ところで、この噂を聞きつけたお月様、自分も一度雷様の打つそばを食べてみようというので、ある夜そば屋に降りて来た。雷様の打つそばがおいしかったとみえて、お月様はそば3杯をたいらげ、30文を払うとまた夜空に帰って行った。
さて、この話はお日様の耳にも届き、今度はお日様がそばを食べに降りて来た。お日様はそばをおいしそうに食べ、次々におかわりをする。そして食べに食べて30杯、そばが無くなったところで、代金1文を置いて空に帰ろうとする。
1文はいくらなんでもひどいので雷様が呼び止めると、「お月様は、いくら置いていった?」とお日様は尋ねる。雷様が30文ですと答えると、お日様は「月に30文なら、日に1文でねえか?」と答えた。雷様はしばらく考え、「そうか、ひと月は30日だから、お月様が30文ならお日様は1文でいいんだ!!毎度ありい!!」と納得してしまう。
こうしてお人よしの雷様は、お日様にまんまと騙されてしまったが、それを気にする訳でもなく、その後も一所懸命働いたので、そば屋はいつまでも繁盛したそうだ。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2011-11-5 12:39 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 石崎直義(未来社刊)より |
出典詳細 | 越中の民話 第一集(日本の民話35),伊藤曙覧、石崎直義、佐伯安一,未来社,1963年09月20日,原題「そば屋に婿入りした雷」,採録地「新湊郡、射水郡」,話者「井城歌次郎、伊藤タメ」 |
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