No.0296
おにとわかもの
鬼と若者
高ヒット
放送回:0184-B  放送日:1979年05月05日(昭和54年05月05日)
演出:漉田實  文芸:漉田實  美術:玉井司  作画:玉井司
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あらすじ

昔、五月節句の日のこと。

一人の若者が犬を連れて狩りへと出かけた。ところがどうしたことか、この日の森は気味が悪いほど静まり返って、小鳥の羽音ひとつしなかった。「妙なこともあるもんだな」若者はそう思いながら、せっかく狩りに出たのだからと、山の奥まで入って行った。

すると若者の前に兎が一匹飛び出してきた。若者は兎を矢で射とめ、捕まえにいこうとした時、突然、木の上から赤裸の大男が飛び出したかと思うと、あっという間に若者の狙った兎をゴクリと飲み込んだ。大男はギラギラとした目で若者を見た。見るとそれは、頭に角が生えた鬼だった。若者は驚いて逃げ出した。あんな恐ろしいものがいたのでは、利口な動物たちが出てくるはずがない。若者は食われては困ると、一目散に元来た道を走った。鬼は地鳴りの様な声を上げて追いかけてきた。

そうして鬼に捕まりそうになった時、若者は石につまずいてポーンと宙にほうりだされた。落ちたところは、ヨモギの草原(くさはら)だった。遠くで若者の犬の鳴く声がする。その内、鬼はゆっくりと若者の方へやってきた。ところが、ヨモギの草原までやってくると、なにやらぶつぶつ呟きはじめ、草原に入るのをためらっている。「火だ、火だ、火の中にいる」やがて鬼は草原を遠巻きにぐるぐると回りはじめた。

若者が鬼の言葉を聞いていると、ヨモギの葉が、火が燃えているように見えるので近づけないことがわかった。若者がじっとしていると、鬼はどこかへ姿を消してしまった。若者はこの隙に草原をぬけて駈け出した。

「待て!」するとまた鬼が追いかけてきた。今度捕まればもう命はない、若者は走って走ってやっと村の見えるほうまでやってきた。その時、また何かに足をとられ、若者は湖のほとりの菖蒲の茂みに転げ落ちた。若者が観念すると、鬼は菖蒲の茂みを遠巻きに、また何かぶつぶつ言っている。「刀だ、刀がいっぱいだ、どうにもならん」鬼の目には菖蒲の葉が刀に見えるとわかり、若者は菖蒲を持って歩きだした。

「それ刀だぞ!刀だぞ!」鬼はいっこうに飛びかかってくる様子がない。無事に家にたどり着いた若者は、さっそく戸口に菖蒲を刺すと、村中の家にも菖蒲を刺して回った。「目が回る、目が回る・・・」とうとう鬼は菖蒲が怖くて村に近づけず、すごすごと森へ帰って行った。

それからというもの、この村では毎年五月五日になると、戸口に菖蒲を刺すようになったそうだ。五月節句の昔話だったとさ。
 

(投稿者: 十畳 投稿日時 2011-8-3 12:12 )


ナレーション市原悦子
出典村田煕(未来社刊)より
出典詳細薩摩・大隅の民話(日本の民話28),村田煕,未来社,1960年08月25日,原題「鬼と若者」,採録地「種子島」,原話「田中シナ」,採集「田中成美」,種子島民俗より
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※掲載情報は 2011/8/4 4:30 時点のものです。内容(あらすじ・地図情報・その他)が変更になる場合もありますので、あらかじめご了承ください。
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コメント一覧
6件表示 (全6件)
ゲスト  投稿日時 2020/9/5 6:18
作画が、意図的なのか、  
小学生の版画みたいなタッチでシュール
抹茶マン  投稿日時 2020/4/30 16:04
作画の玉井司氏のインパクトが強すぎて、まったく杉井ギサブローさんの作品に見えない
ゲスト  投稿日時 2017/10/19 5:58
つまりアレですね。山に入るときはしょうぶかヨモギを食べるなり
身に着けるなりすれば、鬼や妖怪に襲われなくてすむというわけですね。
ちなみにヨモギは鍼灸ではもぐさの材料として使われています。
薬局のおじいさんが魔よけにも使えると言ってたのを思い出しました。
十畳  投稿日時 2011/8/3 17:55
やっさん、はじめまして。
残念ながらあげていただいた2話はまだ見たことがないのですが、
こうしてみると植物を魔よけにするお話も、結構あるんですね。

十畳は、番組が本放送されていた頃の世代ではないのですが、
十数年前、ちょっとしたきっかけで、番組のファンになりました。
VHS全巻&動画サイトにお世話になっている口です。
このような素晴らしいサイトがあるので、
十畳も拙い文章ですが、ぜひ参加させていただきたいと思い、
投稿させてもらっています。
この番組は、本当に素晴らしいと思いますね。
DVD化も有難いですが、ぜひ再放送すべきと常々感じてます。
やっさん  投稿日時 2011/8/3 17:17
十畳さん、はじめまして。

魔よけに、ある種の植物を用いるのは古くからの風習みたいですね。
「鬼と小娘」ではヒイラギですし、「山のぬしと煮た笹の葉」では笹ですね。

同一テーマの話に出来そうです。
十畳  投稿日時 2011/8/3 12:12 | 最終変更
「くわず女房」後半部分の類話っぽいですね。
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