昔、吉田川の上流あたりの山奥に、小さな村がありました。その村には二つの悩みがあって、その悩みとは「洪水被害」と「人食い赤鬼」でした。
この人食い鬼は、村にやって来ては田畑を荒らしたり、牛や馬を食い殺したり、子供をさらったりしました。村人たちはあれこれ相談していましたが、鬼の力にはかなわず途方に暮れていました。
この村には、太一(たいち)という賢くて勇気のある男の子がいました。早くに両親を亡くした太一は、家族同然のように大切に飼っていたヤギを鬼に殺されてからは、いつかは鬼を退治してやろうと思っていました。
ある日、太一が山へ薪(たきぎ)を拾いに行くと、赤鬼が現れました。赤鬼は「これからお前を食べる」と言うので、太一は、怖いのを隠しつつ「鬼のおっさんがゆるぎ岳の上から飛び降るのを見せてくれたら、喜んで食べられますよ」と答えました。
赤鬼は「俺にできないことは無い」と言って、鉄の高下駄を履いて、ゆるぎ岳の頂上へかけ登って行きました。そして、大きな金棒を振りかざしながら、「いいかぁ、良く見ておけよ」と大声を出して、勢いよくジャンプしました。
赤鬼は、ゆるぎ岳から真下の大岩に向かって、一直線に落ちて行きました。その途中、赤鬼の鉄下駄は途中で片方が脱げ、片方の足だけ裸足で着地してしまいました。赤鬼は足の骨を折り、あまりの痛さに「ギャー!」と大きな悲鳴を上げて、山奥へ逃げて行きました。
赤鬼の着地した大岩には、下駄の足跡と鉄棒の跡と裸足の足跡がくっきり残っていました。今でも、この大岩のある吉田川の一の瀬周辺は「鬼の足かた」と呼ばれるそうです。
(紅子 2013-9-26 2:52)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 熊本のむかし話(日本標準刊)より |
出典詳細 | 熊本のむかし話(各県のむかし話),熊本県小学校教育研究会国語部会,日本標準,1973年12月20日,原題「おにの足かた」 |
場所について | 山鹿の一の瀬(地図は適当) |
このお話の評価 | 9.33 (投票数 3) ⇒投票する |
⇒ 全スレッド一覧