昔、石川県の池崎と直津との間に横打(よこうち)という畑地があったが、ここに大きな石があった。
ある日、ここをひとりの貧しい旅人が通りかかった。旅人は三日三晩なにも食べておらず、石の前まできて倒れてしまった。瀕死の旅人が「飯の一椀もあったら」と呟くと、目の前に一碗のご飯が現れた。ご飯を掻き込んであたりを見回しても誰もいない。旅人がもう一杯のご飯を望んだところ、大石の中から飯がでてきた。旅人は喜んで七杯のご飯をたいらげたのだった。
朝になって、旅人は池崎に行って村人たちにこのことを話した。村人たちは驚いて大石の周りに集まり、次々と願い事を口にした。喘息の薬、嫁入りの晴れ着、米一俵…
こうして村人たちは不自由があると大石に出してもらうようになった。
ところがそれからしばらくして、この村に妙な男が訪ねてきた。男は自分を「横打の物貸石」だと名乗り、貸した物をすぐに返してくれと言い出した。村人たちは不審に思ったが、あまりしつこく催促するので、とうとう借りた物をみんな返してやった。さらに先の旅人から手紙と金が来て、この金で米を買って物貸石に返してほしいという。そこで村人たちは物貸石を神様として祭り、借りた物は必ず返すようにした。
ところがある寺の欲深い坊さんが物や金を借りまくり、取立てにきた物貸石を叩き返してしまった。するとにわかに空が掻き曇り、辺りに雷鳴が轟いた。そして畑の物貸石が宙に浮かんだかと思うと、ドスンと地に落ち、その衝撃で寺は崩れ落ちた。物貸石が怒ったのだろうか、今まで畑に寝ていた状態の石が縦に突っ立ち、その後村人たちがどんなにお願いしても、物貸石は何も貸してくれなかったそうな。
(投稿者: hiro 投稿日時 2012-1-8 12:19 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 清酒時男(未来社刊)より |
出典詳細 | 加賀・能登の民話 第一集(日本の民話21),清酒時男,未来社,1959年08月31日,原題「不思議な石 その四」,鹿島郡誌より |
場所について | 横打(地図は適当) |
このお話の評価 | 6.00 (投票数 2) ⇒投票する |
⇒ 全スレッド一覧