昔、越後のある家に、生来の道楽者の兄と、真面目で働き者の弟がいました。ほとほと兄に手を焼いた父親は、親子の縁を切り家から追い出してしまいました。父親はそれからしばらくして死んでしまい、残った貧乏な母子は暮らしが立ち行かなくなりました。
仕方なく、親類に母親を預けて、弟は江戸の医者のところへ奉公に行きました。せっせと働いた弟は、10年かかって十五両もの大金を貯金する事ができました。そこで、医者からお暇をもらって故郷に残していた母親を引き取るために、帰省することにしました。
人里離れた山道を急いでいると、いきなり山賊たちに襲われ、お金も着物も何もかも奪われてしまいました。これでは帰省する事も、再び江戸へ向かう事も出来ず、弟はしばらくの間山賊たちのところで下働きさせてもらう事にしました。せっせと働く弟を山賊たちも重宝しましたが、もう一度江戸で働きたいという弟に、護身用の錆びた刀を渡して快く送り出しました。
再び江戸にもどった弟が、もらった刀を売ると三十両もの大金になりました。そこで弟はもう一度、母の待つ故郷に向かって出発しました。その途中、山賊の家に立ち寄り、差額の十五両を山賊の親方に返しました。
この律儀で正直で頑固な弟に、これまでの生い立ちを尋ねた山賊の親方はハッと気が付きました。「お、お、弟よ、わしはお前の兄じゃ。幼い頃に悪党だったために家を追い出され、このような山賊になっていたんじゃ」と涙を流しました。親方は、これまで奪った宝物を全部手下たちに分け与え、弟と一緒に故郷へ出発しました。
兄弟は、母を引き取り田畑も買い戻して、親子三人でなかよく暮らしました。
(紅子 2012-5-7 1:48)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 川崎大治(童心社刊)より |
出典詳細 | 日本のふしぎ話(川崎大治 民話選3),川崎大治,童心社,1971年3月20日,原題「越後の兄弟」 |
このお話の評価 | ![]() |
⇒ 全スレッド一覧