昔ある村に、吉(よし)ばあさんというお婆さんがいました。吉ばあさんは、ほそぼそと茶摘みなどの手伝いをして暮らしていました。
一人息子の嘉吉(かきち)は遠い町に働きに出ているので、吉ばあさんは一人暮らしでした。離れて暮らす息子の無事を祈りながら、吉ばあさんは毎日毎日、小さな木の前に陰膳(かげぜん、お供え物)を置きました。
不思議な事に吉婆さんが置いた陰膳は、いつの間にか無くなっているのでした。
ある日の事、吉ばあさんが急に倒れて寝込んでしまいました。それでも息子のために陰膳を置きに山へ入りましたが、とうとう木の前でばったりと倒れてしまいました。
真夜中になりふと目を覚ますと、吉ばあさんはちゃんと自分の家で寝ていて、そばには嘉吉がいました。嘉吉は看病のために三日三晩、家にかよって吉ばあさんを手厚く看病しました。おかげで、吉ばあさんはすっかり元気になりました。
それを知った村人たちは、「なんと親孝行な息子だろう」と感心しましたが、嘉吉は一体どうやって遠い道のりを毎晩通ってこられたのか、不思議に思いました。
ただ、朝早く吉ばあさんの家から一匹のタヌキが出てきて、カサコソと竹やぶの中に入って行くのは誰も知りませんでした。
(紅子 2011-12-21 19:01)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 京都のむかし話(日本標準刊)より |
出典詳細 | 京都のむかし話(京都のむかし話研究会,日本標準,1975年03月20日)採録地は山城とのこと。 |
備考 | 陰膳(かげぜん)、家族が無事にあるようにと供える食べ物。 |
場所について | 山城エリア(地図は適当、書籍に記載あった簡略地図から想像) |
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