むかし、ある所に《ばったり沢》というところがあった。このばったり沢には古い狐が住んでおって、通りかかる者は皆よう騙された。村の神社の別当(馬方)も、よう騙されておった。
ある時は、突然物凄い勢いで荒馬が駆けてきて、別当が驚いておる隙に持っていた魚を全部、狐を取られてしもうたそうな。
またある時は、あたりが急に暗くなり道が幾つにも増えておって、どれが本当の道か分からねえ。困った別当が一服つけておると五平どんがやってきたので、二人は「まさか狐じゃあんめえな。」とお互いを確認した後、一緒に歩きだした。ところが、段々と荷物が重たくなってきて我慢できんようなった別当は、五平どんに荷物を持ってもろうた。とたんに五平どんと荷物は掻き消すように消えてしもうて、あたりはいっぺんに明るくなった。別当はまた狐にやられたのじゃった。
また、ある雪の日、別当が馬に乗ってばったり沢に差しかかると、女房が迎えに来たと言って雪の中を現れた。これは怪しいと思うた別当は、もしこれが本当の女房なら帰って謝るばかりじゃと、嫌がる女房を馬の背に乗せさらに縄で縛りあげ、寺沢の自分の家へ急いで帰った。
そうして家に着くなり、別当は厩の中に馬と女房を引入れ、火をおこした。ところが、馬に乗せて来た女房は「私が本当の女房でやんす。」と涙を流すし、家の者は女房は夕方出かけたと言うし、家におった女房はすぐ戻ってきたと言うし、どっちの女房が本物か分からねえ。
そこで、村の長老衆や別当の母親も呼んで、皆で二人の女房の黒子の位置や嫌いな物を調べたが、全く同じでやっぱりどっちが本物か分からねえ。
困り果てた別当は、最後に寝ている子どもを起こして連れて来た。子どもはしばらく二人の女房を見比べていたが、やがて本物の女房(母親)の胸に飛びこんで行った。それっとばかりに別当たちは狐が化けた女房を火の中に放り込んだ。化けの皮がはがれた狐は「畜生!子どもには敵わん!」と火から飛び出し、さらに「寺沢の別当、馬鹿別当、ひっぷりあぶりの大明神!ひゃ~ん!」と悪態をついて、大暴れしながら逃げて行ったそうな。
それからも四季折々、ばったり沢ではやっぱり多くの人が狐に騙されたそうな。
(投稿者: ニャコディ 投稿日時 2012-2-5 0:32 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 深沢紅子(未来社刊)より |
出典詳細 | 岩手の民話(日本の民話02),深澤紅子、佐々木望,未来社,1957年09月30日,原題「バッタリ沢のキツネ」,九戸郡誌より |
場所について | バッタリ沢(地図は適当) |
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