昔、阿蘇山の麓の深い草むらの中を、一人の旅人が歩いていました。この辺りは、九州中の猫が集まって化け猫の修業をするという、恐ろしい噂がある場所でした。
旅人は、道に迷って不安になっていると、遠くに灯りのともった立派な屋敷がありました。旅人は一晩の宿を借りようと、屋敷の玄関で声をかけました。
すると、奥から女が出てきて、何とも気味の悪い座敷に案内してくれました。旅人は、ご飯の前に風呂へ入ろうと、屋敷内の長い廊下を歩いていました。その途中、すれ違った別の女の人が、旅人の顔を見て大慌てで駆け寄ってきました。
女の人は「私は以前、お隣にいた三毛猫です。ここで湯に入ったり飯を食ったりすると、猫になってしまう。すぐにお逃げなさい」と、旅人に忠告しました。
旅人は、急いで屋敷から逃げ出しましたが、屋敷の女たちは湯の入った桶を持って追いかけて来ました。旅人は必死になって走りましたが、先回りした女たちは岩場の上から旅人めがけて湯をぶっかけました。
旅人は、降りかかる湯をどうにか避けて、ようやく逃げ帰ることができました。でも、お湯のしぶきがかかった耳の下と脛(すね)の辺りには、もう猫の毛が生えていたそうです。
(紅子 2013-10-20 1:52)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 松谷みよ子(講談社刊)より |
出典詳細 | 日本の伝説4(松谷みよ子のむかしむかし09),松谷みよ子,講談社,1973年11月20日,原題「猫岳のねこ」,採録地「熊本県」 |
備考 | 採録地は転載された本(日本の伝説上巻,松谷みよ子,講談社,1975年5月15日)で確認 |
場所について | 阿蘇山の根子岳(猫岳) |
本の情報 | サラ文庫まんが日本昔ばなし第24巻-第118話(発刊日:1978年9月18日) |
サラ文庫の絵本より | 猫の祖先が、日本にいつごろやってきたのか、またどうして猫とよばれるようになったかは、はっきりわかっていません。ただ、古い書物によると、九世紀ごろには、いまのように日本にすみついていたようです。いずれにしても、暖かい南方の国からやってきたことはたしかで、それは猫がとても寒がりなことからもよくわかります。さて、猫にまつわる伝説には二種類あって、ひとつは、年老いた猫が、化けて人に危害をくわえるもの、もうひとつは、猫が飼い主に恩をかえすというものです。その二つの要素が、このおはなしには、うまくとりいれられています。ところで、この物語の舞台になった猫岳(根子岳)は、阿蘇山のなかでももっとも古い火口丘といわれていいます。(かっこ枠なし) |
このお話の評価 | 9.20 (投票数 20) ⇒投票する |
⇒ 全スレッド一覧