昔、ある村にたいそうのんきな一人の魚売りがいた。ある日魚売りがいつものように村へ魚を売りに出かけると、道の真ん中で寝ている一人の武士に出くわした。魚売りは武士がぐっすり眠っているのをいい事に、自分の服と武士の服を交換すると武士になりすまし、そのまま道を歩いて行った。
その夜、近くの武家屋敷に泊めてもらう事にした魚売りは屋敷の主人から歓迎を受け、特別な部屋へ案内された。そこで魚売りは床の間に飾られてあった弓矢を誤って放ちふすまに穴を開けてしまうが、なんと矢はふすま越しにいた泥棒の尻に命中していたのである。これを見た主人は魚売りに感謝し、武芸の達人と勘違いされた魚売りは明日の鹿狩りに参加する破目となった。
次の日、鹿狩りの一行は山へと出かけ鹿の通り道に魚売りを置くと鹿追いを始めた。魚売りは今のうちに逃げようとするが、丁度鹿がこちらへ向かって来たので驚いた魚売りが鉄砲を放り出すと、鉄砲は鹿の頭に当たりまたもこれを仕留めてしまった。感心した家来が鹿に弾の跡がないのを尋ねると、魚売りは傷が付かぬよう口から尻に弾を通したと言い、これを聞いた家来は益々魚売りに感心した。
こうして屋敷の者達から尊敬を集めた魚売りは、その腕の良さを見込まれ盗賊退治を頼まれる事になった。しかし魚売りは嘘がばれるのを恐れ、翌朝屋敷にあった箱を持ち出し屋敷から逃げ出すも、山道で盗賊に出会ってしまう。盗賊は箱を金目の物だと思い奪おうとするが、弾みで箱をぶちまけた拍子に中身の手裏剣が運良く盗賊に刺さり、魚売りは見事盗賊を退治したのであった。
追い着いた屋敷の者達は倒れた盗賊の姿を見て早速魚売りを屋敷に連れ戻すと、どうかいつまでもこの家にいて欲しいと魚売りにお願いした。魚売りは武術を教えなくてもよいのならという事で主人の娘と結婚し、ついに本当の武士になった。そうして魚売りを婿に迎えたこの武家屋敷はいつまでも裕福に栄えたという。
(投稿者: お伽切草 投稿日時 2013-12-21 20:35)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 下野敏見(未来社刊)より |
出典詳細 | 種子島の民話 第二集(日本の民話34),下野敏見,未来社,1962年11月25日,原題「武士になった魚売り」,採録地「南種子町夏田」,話者「和島勇三」 |
備考 | 乱れあり |
場所について | 鹿児島県熊毛郡南種子町下中夏田(地図は適当) |
このお話の評価 | 4.50 (投票数 2) ⇒投票する |
⇒ 全スレッド一覧