むかし、葛城山(かつらぎさん)の山奥深くに小鹿(おじか)という男がいた。小鹿は数年前、諸国を巡り歩いている時、行き倒れて死にかけてるところを、ここ葛城山のふもと和泉の里の人々に助けられたのだった。小鹿はそれから葛城山に籠り、仙人になろうとして厳しい修行を積んだ。しかし神通自在を得て、空を飛ぶ仙人になることはなかなか出来るものではなかった。
ある年、ひどい日照りが続いて、和泉の里は田も畑も焼けただれ、作物が全く育たなかった。小鹿はこの惨状を見て、山の中の行場へ向かった。そこには山じゅうの水を集めて、わずかに流れ落ちる滝があった。小鹿はそこで滝に打たれながら、何も食わずに、ひたすら雨の降ることを念じた。山の動物たちも小鹿のために雨乞いの踊りを踊ったが、雨はなかなか降らなかった。
そして三日目の朝、小鹿はバッタリと倒れて意識を失ってしまった。小鹿が生き死にの境をさまよっている中、小鹿の夢に仏様が現れた。仏様は小鹿に言われた。「小鹿よ、おまえが里人を思う気持ちはわかった。おまえに雨を降らせる力を授けよう。このひょうたんを持って、里の空へ飛んで行け。その中には雨の種が入っている。里の上でひとしずくだけ落とすがよい。二しずく落としてはならぬぞ。」
小鹿が目を覚ますと、手には夢で仏様から授かったひょうたんがあった。小鹿はひょうたんを持って山の崖のところに来た。しかし、崖から下を見下ろすと、やはり本当に空を飛べるかどうか不安になった。「オラ、どうなってもいい。あの里を救いたい。」小鹿は意を決して崖から跳んだ。すると、小鹿の体は見事に空を飛んだ。
小鹿は嬉しくなり、里の上空でひょうたんから雨の種を一しずく落とした。すると、たちまち里に雨が降り、土地は息を吹き返した。里人は小鹿を葛城仙人といって里の守り神さんとした。ただ、この守り神さん、おっちょこちょいなところもあり、たまに雨の種を二しずく落としてしまい、村が大水に浸ることもあったそうな。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2011-6-25 11:36 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 大阪府 |
場所について | 和泉葛城山 |
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