昔、福井県にくもが坂という所があった。
以前は穏やかな里だったが、いつ頃からか山に性悪狸が住みつき、悪さをするようになった。村人は腕利きの猟師を雇って退治しようとしたが、逆に返り討ちにあい殺されていた。本来、この事に責任を持つべき山番の甚平は、山の生き物は殺すなと言って、大狸を退治しようとしない。
この甚平という山番、臆病風に吹かれて大狸を退治しないばかりか、殿様の山の木を勝手に切っては、これを売って私腹を肥やしていたのだ。
ある日、村に若者が仕事を探してやって来た。名は貞次郎(ていじろ)といいトチと言う名の猟犬を連れていた。甚平は貞次郎を快く迎え、夜だけ山番をやってくれと頼んだ。ところが、甚平が貞次郎を雇ったのには裏があった。甚平は、これまで自分がした悪事を全部貞次郎に着せるつもりだったのだ。
甚平は「トチは猟犬だから山の生き物を殺すかもしれん。」と言って、その夜貞次郎を一人で山に行かせた。すると案の定、坂の途中で大狸が現れた。しかしその時、番屋からトチが飛出し、貞次郎を助けに来た。トチは大狸と果敢に戦ったが、もつれ合って崖の下に落ち、大狸と相討ちになってしまった。
大狸を退治した貞次郎は村人から感謝された。ところが甚平は、山の生き物を殺したのでこの事を殿様に報告すると言う。これには村人が猛反発。すると甚平は、今度は手のひらを返し「この狸の皮を剥いで殿さまに渡して褒美を二人で山分けしよう」と貞次郎に持ちかける。
貞次郎は、狸が死ぬ前に「皮をはいだ奴を祟ってやる」と言ってたのを思い出し、甚平を止めようとする。しかし甚平は聞く耳を持たず、狸の皮を剥いだ。すると狸の腹から黒い煙が出てきて、甚平の顔を覆った。
その後、甚平の姿を見たものはいなかったという。村人たちはトチと大狸の亡骸を手厚く葬ってやった。そして貞次郎は村人たちに歓迎されて、いつまでもこの村で幸せに暮らしたそうだ。
(投稿者: KK 投稿日時 2012-10-2 22:56)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 福井県 |
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