昔、信濃は平尾の大沼池に一匹の大蛇がいた。この大蛇、吐く息で辺りの木々を焼き尽し、土手を切っては大洪水を起こすなど、その悪さは止まるところを知らなかった。
大沼池の主である竜神が幾度となく悪さを止めるよう大蛇を諭したが、大蛇は聞く耳を持たず、そればかりか、その悪さはますますひどくなるばかり。そこで竜神は、大蛇を小坊主の姿に変えてしまった。そして、山を下りて温泉寺で修行して心を入れ替えるように命じた。
小坊主になった大蛇が温泉寺の住職を見ると、住職にはいつも子供や小鳥たちが寄り添い、その柔和な人柄は天地いっぱいに広がっているようだった。大蛇はこの住職の姿に心を打たれ、迷わず弟子入りを願い出た。
こうして小坊主になった大蛇は、住職の元で読経や座禅のなどの修業を何年も行い、とうとう立派な僧となって大沼池に帰ることとなった。
大蛇は大沼池に帰ってからも、住職から受けた恩に報いるため毎月立派な椀を温泉寺に送り続けた。ところがこの椀が立派すぎたため、ある日温泉寺に泥棒が入り、椀と一緒に大事な仏像まで盗んで行ってしまったのだ。
あまり立派な物を送るとかえって迷惑になると思ったのか、大蛇からその後お椀が送られて来ることはなかった。その代り温泉寺の池の淵には、きれいに磨き上げられた丸石が送られて来るようになった。そして不思議なことに、この丸石が送られて来る度に、年老いた住職の寿命が延びるのだった。
この丸石は、今でも温泉寺に石塔として残っているそうだ。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2012-9-4 11:17)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 長野県 |
場所について | 長野県下高井郡山ノ内町大字平穏2032 横湯山温泉寺 |
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