昔、三河の浜辺の村(今の愛知県西尾市)では、はやり病がおこり、多くの人が高い熱を出して苦しんだ。
早くに妻を亡くした漁師の源三の息子「源吉」も、昨日から高い熱を出してうなされるようになった。村人たちが芋や魚をもって源吉の様子を心配して見に来るが、源三は「大したことない」というだけであった。しかし本当は、源吉のことがとても心配だった。
五日たっても六日たっても、源吉の病はよくならなかった。日に日に弱っていく源吉を見ていると、源三はたまらなくなり、夜の浜辺に向かって一心に祈った。
すると、海の沖の方に何やら光るものが見えた。不思議に思った源三は漁師仲間と船を出して、その正体を確かめに行った。それはとても大きく、不気味なこぶが多い古木で、見れば見るほど気味が悪かった。
源三たちは「これがはやり病を起こした疫病神だ」と思い、古木を燃やすことにした。しかし、村中の薪を集めて燃やしても、不気味な古木は小枝一本燃えないのであった。
すると、そこに旅の坊さんが通りかかった。この古木は、魂が宿ったありがたい木であるという。この木を祀れば、はやり病はみんな治るということであった。
その日から坊さんは昼夜を問わず、のみをふるって古木で観音様を作り始めた。やがて大変見事な観音様ができあがると、あれほど苦しんでいた源吉はすっかり元気になった。他のはやり病に苦しんでいた村人たちも、みんな元気になった。坊さんはそれを見ると安心して、村を去って行った。
村人たちは、観音様をこの地域で一番高い三ヶ根山の山頂に祀った。今でも「三ヶ根観音」と呼ばれ、人々の信仰を集めている。
(投稿者: カケス 投稿日時 2013-9-12 20:37 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 愛知県 |
場所について | 三ケ根観音 |
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