昔、ある村里に花岡の誠治郎(せいじろう)という若者がいました。大きな家に住んでいて生真面目で働き者、顔つきもキリリとした良い青年でしたが、どうにも村の若い連中と馴染むことができませんでした。
ある時、村の和尚さんに城下への使いを頼まれました。誠治郎は持ち前の律儀さで一日も無駄にすることなく遠い道のりを休まずに城下へ向かいました。そして、大事なお使いを無事に終えた、その帰り道のことです。
森を抜ければ村に帰り着くというところで、誠治郎は怪しい人影を見つけました。しかし、それはよくみるとお地蔵様でした。安心して帰ろうとすると、どこからか良い匂いが。お地蔵様にお供えされたお饅頭です。
空腹だった誠治郎は一旦は思いとどまりますが、どうしても空腹に勝てず一個もらうことにしました。ところがそのお饅頭の美味しいこと。一個ののつもりが二個となり、とうとう全部食べてしまいました。
誠治郎は「お地蔵様、このことは他言無用にお願いします」と言って去ろうとすると、「わかった。ワシは言わんが、お前も言うなや」と声がしました。驚く誠治郎に、さらにお地蔵様は「ワシは言わんが、お前も言うなや」ともう一度告げました。
びっくり仰天した誠治郎は大慌てで家に帰り、このことは誰にも話しませんでした。
そして、しばらく経った頃、村祭りが行われました。誠治郎は、そこで勢いにまかせてお地蔵様が喋った事を村の若い連中に言ってしまいました。ところが「石のお地蔵様がしゃべるものか」と誰も相手にしてくれま せん。それでも引っ込みがつかなくなって「喋ったのだ」と言い張る誠治郎に、「喋っただけじゃなくて、ちゃんと説明しろ」と村の連中が言いました。
しかし説明しようにも、それをすると「お地蔵様のお供えをつまみ食いした」事も話さなくてはなりません。黙りこんでしまった誠治郎を、周りの若い連中は冷ややかな態度で見守ります。そこへ和尚さんがやってきて「もっと肩の力をぬかないと、みんなと仲良くなれない」と誠治郎を諭しました。そして観念した誠治郎は自分がしたことを話したのでした。
打ち明けたあとは、お供えをしたオババに散々に怒られた誠治郎でしたが、みんなは「あの誠治郎がお地蔵様のお供えをつまみ食いするなんて」と大笑いし、それから誠治郎は村の若い連中と仲良くなることができたのでした。お地蔵様は、ひょっとすると全てお見通しだったのかもしれませんね。
(投稿者: もみじ 投稿日時 2013-1-8 22:36)
「せいじろう」は当て字です。(;´Д`)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 石川の昔ばなし(三丘社刊)より |
出典詳細 | 里の語りべ聞き書き 第01巻,川内彩友美,三丘社,1986年04月10日,原題「おまえ言うなや」 |
VHS情報 | VHS-BOX第5集(VHS第43巻) |
このお話の評価 | 6.73 (投票数 11) ⇒投票する |
⇒ 全スレッド一覧