昔々、「赤どん」と「青どん」と言う、二匹の化け上手な狐が居ました。ある時、青どんが「化け方の名人が二匹も居たのではつまらん、化けくらべをして雌雄を決めようじゃないか」と赤どんに持ちかけ、二匹は化けくらべをする事になりました。
勝負は「二匹一度に化けて、どちらがより高いものに化けられるか」を競う事になりました。早速青どんが気合いを入れて、物凄く高い火の見櫓に化けますと、赤どんは小さな竹の子に化けておりました。「これで勝負は決まったな、俺の勝ちだ」と青どんが喜んでいますと、赤どんの竹の子は物凄い勢いで空に伸び、青どんの火の見櫓を追い越して、天まで届く程の高い竹になりました。「ほっほっほ、竹の子は天に伸びるものだと言う事を知り申さんか?」赤どんはそう言って笑いました。そして化けくらべは赤どんの勝ちと言う事になりました。
然し、化ける術の凄さでは無く赤どんの知恵に負けた青どんは面白くありません。酷い目に合わせてやると怒りに燃えながら家路についておりますと、途中でふたりの猟師が立ち話をしているのに出くわしました。隠れて様子を伺っておりますと「赤狐の奴が最近人をたぶらかしてならないから、退治してしまおう」「明日、野原の地蔵様の前で待ち合わせしよう」と語らっているのでした。
青どんは良い事を聞いたと勇み立ち、元来た道を引き返して赤どんの元へ行くと「とっておきの術を思い出した。もう一度化けくらべしようや。明日、野原の地蔵様の前に来てくれ」と頼み込み、赤どんもそれを承知しました。
翌日、青どんが草むらに隠れて様子を伺っていますと、赤どんが地蔵様の前にとことこと姿を現わしました。そこへ昨日の猟師達が現れて、驚いて逃げようとする赤どんを「ズドン!」と鉄砲で撃ってしまいました。そして赤どんは棒に括りつけられ、猟師達に連れて行かれてしまいました。
「やった!ざまぁ見ろ赤どんめ!」と青どんは大喜びしました。ところが、棒に縛られた赤どんが大きなくしゃみをひとつすると猟師達が赤どんの姿になり、ふたつくしゃみをすると棒に括りつけられた赤どんだけ残して猟師に化けた赤どんの姿が消え、みっつくしゃみをすると全てが消えうせて、何も無くなってしまいました。
青どんが「これは一体どうした事だ?」とうろたえて居ると、突然後ろから赤どんの笑い声が聞こえました。驚いて振り向くとそこには赤どんが無傷で立っており「昨日お前さんが酷く怒りなすって居たで、お前さんの心の中を見てやろうと猟師に化けて見申した」とすました顔で言うのでした。
心の内まで読まれたのではとても勝ち目は無い…「参り申した!」と土下座する青どんに赤どんは言いました。「これも狐の化け方四十八手のひとつでごわすよ、ほっほっほ」
(投稿者: 熊猫堂 投稿日時 2013-3-9 19:41 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 鹿児島の伝説(角川書店刊)より |
出典詳細 | 鹿児島の伝説(日本の伝説11),椋鳩十,角川書店,1976年10年10日,原題「化けくらべ」 |
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