むかし、鳥取の尾原(おわら)の山奥に昼でも暗い森があって、この森に「小豆とぎとぎ」という化け物がおったそうな。この小豆とぎとぎは、ゴリゴリと小豆を研ぐような音をさせ人間の着物の裾をめくり上げるという化け物じゃったが、姿を見たものは誰もおらんかった。
ある時、近くの村に住む「馬さん」という肝が太いことが自慢の男が、一人でこれを退治しに出かけたそうな。馬さんは、小豆とぎとぎに着物の裾をめくられないように、股ぐらを縄でぐるぐる巻きにして出かけて行った。
馬さんが真っ暗な夜の山の中を進んでいくと、ペカリと遠くに青い火が見えた。そうして、闇の中から小豆を研ぐ音が聞こえてきた。そして突然、『小豆とぎとぎ、すれたかすれんか見てごぜぇ~!』と大きな声がして、目の前に小豆とぎとぎの「すりこぎ」だけが現れた。
そのすりこぎは馬さんを小突きまわして、しつこく追いかけ回した。頭にきた馬さんがすりこぎを捕まえると、姿の見えない化け物と馬さんですりこぎの引っ張り合いになった。じゃが、そこは力自慢の馬さんのこと、とうとう小豆とぎとぎからすりこぎをひったくったそうな。
そうして、馬さんが小豆とぎとぎのすりこぎを持って村へ帰りつく頃には、もう夜が明け始めておって、村の入り口には村人達が集まっておった。馬さんは意気揚々とすりこぎを掲げたが、村まであと一歩というところで、突然、あたりが暗くなった。そうして、「そのすりこぎ、戻してくれぇ~!」と声がしたかと思うと、馬さんの股ぐらに巻いた縄がはらりと解けて、着物の裾がめくれ上がった。
そして馬さんが握りしめていたすりこぎがふわりと浮きあがり、小豆とぎとぎの大きな笑い声だけ残して、すりこぎはどこかへ消えていってしもうたという。こんなわけで、馬さんも村の一歩手前で、やっぱり小豆とぎとぎに尻をめくられてしもうたと。
(投稿者:ニャコディ 投稿日時 2014/7/14 21:37)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 稲田和子(未来社刊)より |
出典詳細 | 鳥取の民話(日本の民話61),稲田和子,未来社,1976年07月30日,原題「小豆とぎとぎ」,採録地「倉吉市西町」,話者「安藤重良」 |
場所について | 尾原の奥の方の山の中の林(地図は適当) |
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