山に住む動物達が、夜の暮らしを見守って下さるお月さまに感謝の意を示そうと、色々な芸を行ってお月さまに観て貰おうと言う事になりました。
動物達が銘々、自分の得意な芸の話をしている中、猪だけは「俺にはお月さまに観て頂く芸がない」としょんぼりしています。それを観た動物達は「お月さまに怒られても知らないぞ」「芸なしは仲間にしないよ、早く帰りな」と猪をのけ者にしました。
猪は住処に戻って、弟の猪に事の次第を話し「お月さまに申し訳ない」と泣きました。すると弟の猪は「兄貴、俺達にだってできる事があるさ」と言いました。
さて十五夜の晩、動物達はお月さまに観て頂く為に色々な芸をしました。兎は杵つき踊り、狸は腹つづみ、狐は狐火を操る芸を、猿はそれらの芸をそっくり猿真似して見せました。
でもお月さまは少しも喜んだ素振りを見せませんでした。動物達は「どうすればお月さまは喜んでくれるんだろう」とすっかりしょげてしまいました。
ところで、その反対側の山では、猪兄弟がお月さまに向かってこう言いました。「俺達、何も芸がないけど、せめて力いっぱい相撲を取ってお見せしますので、どうか観て下さい」
そして、猪兄弟は山の頂の台地を土俵に見立て、力いっぱい相撲を取りました。その一生懸命さにお月さまは熱心になって観ておりましたが、やがて「わっはっは、のこったのこった!」と大きな声で笑いました。
これを観た他の動物達は面白くありません。「なんで相撲ごときが面白いのか」「下品なばかりでちっとも楽しくないじゃないか」と文句を言いました。するとお月さまは動物達に向かって「自分の自慢ばかりして他人を貶めてはならん!例え芸がなくとも一生懸命相撲をとって見せる、この姿勢こそが大事なのだ」と言って叱りました。
それからも、十五夜の夜には猪兄弟による奉納相撲が、山の台地で度々行われたと言う事です。
(投稿者: 熊猫堂 投稿日時 2012-11-28 1:35 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 福岡県 |
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