昔、ある所に爺さまと婆さまが住んでいた。二人には年を取ってから授かった一人息子がおり、二人は息子が早く一人前の大人になるのを何よりも楽しみにしていた。
しかし、二人はもう若くはない。「自分たちに万が一の事があったら、息子は一人で生きていけるだろうか?」爺さまと婆さまは息子の将来を案じ、息子を寺子屋で通わせることにした。
ところが息子は、全く読み書きを覚えようとせず、毎日猫の絵ばかりを描いているのだった。息子が描く猫の絵は、子供が描いたとは思えないほど上手な出来栄えだったが、そんな息子の姿を見ている爺さまと婆さまは心配でならない。
爺さまは息子を叱り、読み書きを覚えるように諭したが、それでも息子は聞く耳を持たない。怒った爺さまは、とうとう息子に勘当(かんどう)を言い渡した。爺さまから勘当された息子は、今まで描いたたくさんの猫の絵を背負って家を出て行く。
息子を勘当した爺さまだったが、息子を全く見捨てたという訳ではなかった。一人で生きていけなければ息子は戻って来るだろうし、もし戻って来なかったら、それは一人前になったという証拠なので、良いことだと思っていたのだ。
さて、家を追い出された息子は村々を転々と渡り歩いた。やがて日も暮れ、その夜はある村の廃寺に泊まることにした。一人で心細かった息子は、周りに自分が描いた猫の絵を並べて眠りにつく。
そして夜も更けた頃だった。何やらガリガリと不気味な音が聞こえ、天井の梁に巨大なネズミが現れたのだ。恐ろしくなった息子は必至で「南無阿弥陀仏」と念仏を唱える。するとどうだろう、息子の描いた絵からたくさんの猫が飛出し、大ネズミに襲いかかったのだ。
翌朝起きてみれば、寺の池に昨晩の大ネズミが死んでいる。これを見て喜んだ村人は、息子にこの寺の住職になってもらいたいと頼む。実はこの寺、この大ネズミのせいで住職が逃げ出し、長らく廃寺になっていたのだ。
こうして息子は寺の住職として身を立て、その後、爺さまと婆さまも時々息子の寺を訪ねに来たということだ。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2012-11-23 19:46)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 青森の昔ばなし(三丘社刊)より |
出典詳細 | 里の語りべ聞き書き 第01巻,川内彩友美,三丘社,1986年04月10日,原題「絵ねことねずみ」 |
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