昔、甲州の河口湖畔の大石村に大火が出て多くの家々が燃えた。火事の後、復旧工事のためたくさんの大工が村にやって来た。
その大工の中に、河口湖の向こうの小海村の幸右衛門(こうえもん)という大工もいた。何ヶ月も大石村にとどまるうちに、幸右衛門と大石村の娘おるすは愛し合うようになっていた。だが、幸右衛門には親の決めたいいなずけが小海村にいたのだった。
そして工事が終り、幸右衛門が小海村へ帰る日となった。おるすは幸右衛門に「お嫁にしてよ」と言ったが、幸右衛門は「百晩欠かさずオレの所へ通って来たら、夫婦になってやる」と、適当な返事をして小海村へ帰って行った。
おるすは幸右衛門の言葉を信じ、それから毎晩たらい舟に乗り河口湖を渡った。おるすは、幸右衛門が灯す「勝山明神の灯」を頼りに、雨が降っても風が吹いても欠かさず通い続けた。おるすのあまりの執念に、幸右衛門はそのうちうとましくなってきた。
そしてとうとう百日目の晩になった。その晩は嵐で、おるすは勝山明神の灯だけを頼りに、たらい舟をこいでいた。だが幸右衛門は「この嵐じゃまさか今夜は来ないだろう」と考え、自らの手で灯を消してしまった。
目印を失ったおるすのたらい舟は、湖の中程で立ち往生し、やがて岩にぶつかり沈んでしまった。そしておるすはそのまま水死してしまった。翌朝、おるすの死を知った幸右衛門は、その夜、闇に紛れてどこへともなく姿を消してしまった。
そのおるすの舟がぶつかった岩を「るすが岩」と言うようになった。
(引用/まんが日本昔ばなし大辞典)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 山梨県 |
場所について | 富士河口湖町大石 河口湖畔の留守が岩 |
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