昔、薩摩には夏になると、必ず鱶九郎(ふかくろう)という人攫い(ひとさらい)が来ていた。本拠地は分からず、四国の宇和島と言う者もいれば、瀬戸内海の因島と言う者もいた。
薩摩はたばこの名産地で、畑中がたばこだらけだった。たばこは大人の背よりも高く、畑に人が隠れていても分からないので、鱶九郎はたばこ畑に忍び、次々と女を攫っていった。
ある日の夜、鱶九郎が舟に乗って島から出ようとすると、霧が濃くなって一寸先も見えなくなった。舟に乗って進んでいると、「もし、そこの舟どこへ行くのですか」と、聞こえたので、辺りを見回してみると舟の舳先に娘が立っていた。「私は、この浜の育ちで、この辺りの事なら目隠しされていても、手に取るように分かります。私の言うとおりに進みなされ」と言って舟を進ませた。人攫いたちは、娘の言うとおり進んだ。
しばらくすると、島が見えたので舟をつけて一休みしていた。すると、むこうから六艘の舟が来て、浜に舟をつけて降りてきた。この舟には槍や弓を持った役人が乗っており、人攫いたちは一人残らず役人に捕まった。
攫われた娘たちが、島の近くで消えた不思議な娘の事を役人に話すと、役人も「自分たちに人攫いの事を知らせに来たのも娘だった。」と言う。娘たちが島を調べていると小さな社があって、開けてみると、さっきの娘にそっくりな弁財天様の像があった。不思議なことに、人攫いに捕まった娘を哀れに思った弁財天様が助けてくれたのだ。
それから薩摩は平和になり、安心して暮らせるようになった。弁財天様が祀られているこの島は、海潟温泉の目の前にある江の島だということだ。
(投稿者: KK 投稿日時 2012-10-4 20:38 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 鹿児島の伝説(角川書店刊)より |
出典詳細 | 鹿児島の伝説(日本の伝説11),椋鳩十,角川書店,1976年10年10日,原題「江の島弁天」 |
場所について | 鹿児島県垂水市海潟の江の島(地図は適当) |
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