昔、飛騨の国は乗鞍山の西、山ひだの中に沢上(そうれ)という谷があって、そこには長吉(ちょうきち)という大変信心深く、正直な炭焼きが住んでいた。
ある夜のこと、長吉が炭焼き窯の前でウトウトしていると、長吉の夢に白髪の老人が現れ、「高山のみそ買い橋の上に立つがよい。きっといいことが聞ける。」と言う。信心深い長吉は、これを神様のお告げと信じ、早速炭を売りがてら高山の街へ降りて行くことにした。
ところが、長吉が高山の街のあちこちでみそ買い橋という橋を尋ね歩くも、そんな名前の橋を知る者は誰もいなかった。そうこうしているうちに日も暮れかかり、腹が減った長吉は、村はずれの豆腐屋に入った。すると豆腐屋の主人は、店の前の道に架かる小さな橋を指さし、あれがみそ買い橋だという。その筏(いかだ)をつなぎ止めて作ったお粗末な橋は、橋向こうの味噌屋に行くために使われるので、みそ買い橋と呼ばれていた。
さて、長吉は次の日から夢のお告げどおり、みそ買い橋の上に立つことにした。ところが、長吉が丸一日橋の上に立っていても、何も良いことなど聞きはしなかった。それでも長吉は橋の上に立ち続け、3日、4日と日は過ぎていった。そうして、5日目のこと。不思議に思った豆腐屋の主人は、長吉に橋の上に立っている理由を聞いてきた。そこで長吉は、夢のお告げの事を豆腐屋の主人に話した。
豆腐屋の主人は、長吉の話を聞くと笑いながら言った。「そんなつまらん夢の事など、早く忘れなせぇ。実はワシも同じような夢をみたんじゃ。沢上(そうれ)という所に長吉という者がいて、その男の家のそばに松の木がある。その松の木の根もとに宝が埋まっているという夢を見たんじゃ。」
長吉は、これを聞いて一目散に村に帰り、家のそばの松の木の根元を掘ってみた。すると、果たして豆腐屋の言ったとおり、金銀財宝がザクザク出てきた。長吉はそのおかげで大長者になり、村の人たちから福徳長者と呼ばれるようになった。そして、この話は高山まで伝わり、みそ買い橋は福をもたらす橋として大切にされたそうだ。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2011-11-12 10:41 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | (表記なし) |
場所について | 飛騨の乗鞍山の西にある沢上谷(そうれたに)周辺 |
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