昔、八丈島では春になると、山荒らしや山火事を防ぐために山を見張る番人(山番)が山小屋に住み込む習慣がありました。
八丈島には「テンジ」という山の妖怪がいました。テンジは夜中になると「ヒャッヒャッヒャッ!」と高笑いをしながら、山小屋にやってきてはいたずらを繰り返すのでした。
今年は、権助じいさんが山番として山へ入りました。ある夜、山小屋にテンジがやってきて、さんざんいたずらした後に、孫のために作っておいたヤジロベエを奪って逃げていきました。
翌日の夜、若い娘がおはぎを持って山小屋にやってきました。おはぎの重箱を差し出した娘の腕は、なんと竹でした。娘はテンジが化けたものだと気が付いた権助じいさんは、持っていた小刀で竹の腕を切り落としました。
その夜、権助じいさんがすっかり眠りについていると、テンジが「ヤジロベエを返すから、腕を返してくれろ」とやってきました。権助じいさんは、泣きながら謝るテンジを哀れに思って、竹の腕を返してあげました。
テンジの容姿は、まるで幼い子供のようでした。可哀想に思った権助じいさんは、テンジの竹の腕に囲炉裏の灰を付けて、元通りに接いであげました。そして、「一人じゃ寂しいだろう」と、ヤジロベエはそのままテンジにあげました。
テンジは、ヤジロベエを持って「ヒャッヒャッヒャッ!」と笑いながら、山奥に帰っていきました。その後、テンジが山小屋に現れることはありませんでした。
(紅子 2013-10-7 1:32)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 浅沼良次(未来社刊)より |
出典詳細 | 八丈島の民話(日本の民話40),浅沼良次,未来社,1965年08月15日,原題「テンジと山番」,採録地「中之郷、大賀郷」,原話「菊池青梅、吉田貞助」 |
場所について | 三原山の山頂(地図は適当) |
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