昔、信州の一重山(ひとえやま)のふもとに、働き者の百姓の老夫婦がいました。
ある日の事、老夫婦は、村はずれの丘で薄汚れて鼻の欠けたお地蔵さまが転がっているの見つけました。二人はこのお地蔵さんをきれいに洗って、見晴らしの良い場所に安置してあげました。そして、いつも二人仲良くお地蔵さんを拝むようになりました。
やがて春になり、田んぼの代掻きをする季節がやってきました。しかし、お爺さんが病気で寝込んでしまい、村の人たちは「ほれみろ、あんな鼻が欠けた地蔵さんなど拝んでも何にもならない」と馬鹿にしました。
お婆さんはそんな村人たちの陰口など一向に気にせず、病気で働けないお爺さんの分まで一人で働きました。それでも、一人では田んぼの代掻きはできず、お婆さんは困ってしまいました。
すると、見ず知らずの小僧さんが田んぼに現れて「オラが馬のはなとりをしてあげる」と言いました。この謎の小僧さんが上手に馬をあやつってくれたおかげで、老夫婦の田んぼは見事な田んぼに仕上がりました。
代掻きもおわり、二人で田植えを行い、どうにか無事に田植えも終わりました。お婆さんは小僧さんに、お礼のおにぎりを渡そうとしましたが、いつのまにやら小僧さんはいなくなっていました。お婆さんは、せっかく作ったおにぎりなのでお地蔵さんにお供えする事にしました。
その時、お婆さんがふとお地蔵さんの顔を見ると、小僧さんと同じ顔であることに気が付きました。きっと、困っていたお婆さんのために、お地蔵さんが小僧さんに姿をかえて現れたのでしょう。
それからしばらくしてお爺さんの病気もすっかり治り、二人はお地蔵さんにお礼参りをしました。その後、村の人々はこのお地蔵さんのことを「はなとり地蔵」と呼びました。
(紅子 2012-11-15 1:38)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 長野の昔ばなし(三丘社刊)より |
出典詳細 | 里の語りべ聞き書き 第07巻,川内彩友美,三丘社,1989年09月10日,原題「はなとり地蔵」 |
場所について | 屋代城跡(別名:一重山城、ひとえやまじょう) |
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