昔、大喰らいで働き者の長兵衛という男が、年老いた母親と二人で暮らしていました。
ある秋の日、縁あって隣村から嫁がやってきました。初めての嫁の里帰りの時に、長兵衛も嫁の実家に呼ばれることになりました。その際、母親が長兵衛に「嫁の父親に嫌われるかもしれないから、あまりガツガツと食べるなよ」と、忠告しました。
嫁の実家に着いた長兵衛は、座敷で義父と向き合わせで座っていました。不意に義父が「婿殿はどんな奴が嫌いか?」と聞いたものだから、長兵衛はついうっかり「大喰らいが嫌いだ」と答えてしまいました。義父も「ワシは臆病者が嫌いだ」と答えました。
やがて、嫁と義母がそれはそれは美味しそうなご馳走を次々に運んできました。長兵衛は本当はたくさん食べたかったのですが、先ほどの事もあるし母親からの忠告もあるし、グッと食べるのを我慢しました。
でも、好物の掻い餅(かいもち)が出てきた時に、我慢できなくなった長兵衛は、こっそり餅を着物の袖の中に忍ばせました。
その晩、皆がぐっすりと寝静まった頃に、台所で何か不審な物音がしました。怖々と義父が様子を見に行くと、瓶をかぶった不審者がよたよたと歩いていました。
本当は臆病者だった義父は、その様子を見てすっかり腰を抜かしてしまいました。でもその正体は、頭に瓶をかぶった長兵衛で、袖の中の餅を瓶の中に隠し夜中こっそり食べていた所、瓶から頭が抜けなくなっていたのでした。
二人は、お互いの秘密がばれておかげですっかり打ち解けて、今夜の事は二人だけの秘密にする事にしました。しかし翌朝になってみると、昨晩の事は義母にも嫁さんにもすっかりばれていました。
こうして初めての嫁の里帰りは無事に終わりましたが、嫁の実家での出来事により長兵衛と嫁の心は解け合い、いつまでも仲良く過ごしたそうです。
(紅子 2013-11-2 1:12)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 岐阜県 |
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